米国流資本主義を評して「強欲(greedy)」と呼ぶのが通り相場だったとしたら、この秋以降それは「倹約(frugality)」に取って代わられることだろう。

 S&P500株価指数構成銘柄企業のCEO(最高経営責任者)500人が2007年に受け取った年収の総額は、当年末邦貨に換算し約8000億円、1人当たりにすると16億円だった。平均値でこれだから、GS(ゴールドマン・サックス・グループ)会長兼CEOのロイド・ブランクファイン(54)ともなると60億円を軽く超す(米ナショナルセンターAFL-CIOのサイトを参照)。

500人の年収はラオスやニジェールのGDPを超える

 世界にはアジアのラオス、アフリカのブルキナファソやニジェールのように、一国のGDP(国内総生産)がこの500人の年収総額に達しない国がある。日本では総理大臣がホテルで飲食する程度のことまで言挙げされ、よく言えば平等、ありていに言ってやっかみを社会の編成原理とする風潮が強いけれども、米国の経営者が得てきたカネの額は、さすがに常識の範囲を逸脱していた。

 今後は米企業の業績が悪化することによる当然の帰結として、いかにも強欲の象徴となってきた経営者の高額所得に強い下向きの圧力がかかっていくに相違ない。

 英文新聞雑誌記事を網羅する世界最大級のデータベース(Factiva)を用いて過去1年を対象とし、「US」に掛けて「greedy」と「frugality」という言葉をそれぞれクロス検索してみると、前者の組み合わせでは1万3000件近い記事に当たる。それに対し後者が拾い上げる記事は1200本に満たない。

 この差は今後、急速に接近することだろう。米国のfat cat(高額収入を得る有力者)がスリムになり、USと掛けてfrugalityと解く時代が、どうやら来そうである。高額不動産の売れ行きには急ブレーキがかかり、ヨットや絵画のような高値の動産は処分される。老後資金を水泡に帰させたベビーブーマーたちこそは悲惨であって、削れる生活費はみな削ろうとするに違いない。米国に大恐慌以来80年ぶりで、耐乏を忍ぶ時代がやってくる。

 このことは、世界中の人々が抱いてきた米国観に深刻な修正を強いかねない。魔法が解けるような心理的効果すら、起こさないとは限らない。不況や停滞は米国の近過去になかったわけではないにしろ、今回米国を見舞うそれは(1)程度において全くもって未曾有、(2)CNNとYouTubeがある今は、イメージ伝播力の点で世界即座同時的、しかも(3)中国という新顔が日々実力を増しつつある点をも加味すると、米国をこの度襲う経済の逆境こそは、「米国頼むに足らず」の雰囲気を醸成させかねない。

 事実、中国を当てにしようとする心理は日増しに強くなっている。ゴードン・ブラウン英首相は、ついこの間までの不人気がどこへやら、いまや英国内外に高い評価を得ている。信用システムを維持したければ銀行への資本注入が避けられないと説き、果断に踏み切って世界の流れを主導したからで、同じことを言おうとして先を越された日本のお株を奪ったのみならず、指導者としての風格をにわかに増した感がある。そのブラウン氏が、このところさかんに中国の役割を強調する。