9月29日の日経新聞によると、ホテルの客室稼働率が夏場に上昇した。8月は東京が73.9%、大阪が83.9%で、いずれも採算ラインとされている70%ラインをクリアした。不況で遠出を嫌った国内レジャー客や、アジアからの観光客の取り込みが、改善の主因。だが、前年比10%超の幅で客室単価が下落したホテルが多いという。需要喚起のため、価格を引き下げたのだろう。

 一方、日本観光旅館連盟が7月29日に発表した2009年度春季(3~5月)の旅館営業概況調査によると、回答を寄せた251旅館の定員稼働率(収容定員に対する宿泊人員の割合)の平均は、33.4%にとどまった。新型インフルエンザ流行という悪材料もあって需要が通常より落ち込み、前年同期を2.6ポイント下回った。発表資料には「団体旅行の減少に加えて個人、グループ旅行の手控えも目立ち、経営者からは先の見通しが読めないと悲鳴に近い報告が寄せられている。冬季に続き春季も最悪となった」と書かれている。

 上記の統計に初めて接した筆者は、稼働率の絶対水準の低さに驚いた。繁忙期は有名旅館なら稼働率がおそらく100%近くになり、平日など閑散期は極端に低くなるといった振れがつきものの業界なのだろうが、それにしても低すぎる。過剰供給が常態化しているのではないか。

 そうした筆者の問題意識をある程度裏付ける数字を、10月2日に発表された日銀短観・業種別計数に見出すことができる。

 旅館やホテルを含む業種分類「飲食店・宿泊」について、国内における製商品・サービス需給判断DI(「需要超過」-「供給超過」)を見ると、直近9月調査では全規模合計で▲58、うち中小企業が▲57である。前回6月調査で記録したボトムからはやや上昇したものの、マイナス幅は異様に大きい。

 また、「飲食店・宿泊」の販売価格判断DI(「上昇」-「下落」)は、全規模合計が▲35、うち中小企業では▲38という、大幅なマイナスになっている。

 こうした過少需要・過大供給ゆえに値崩れが起こりやすい構図は、「飲食店・宿泊」に限ったことではない。筆者が日銀短観・業種別計数についての過去のリポートなどで繰り返し強調してきたように、消費者に直接対面している他の業種、「小売」と「対個人サービス」についても、状況は基本的に同じである。筆者の見解では、人口減・少子高齢化の進行に伴う国内需要「地盤沈下」と過剰供給との組み合わせに、そうしたデフレ構造の根本的な原因がある。