米国のブッシュ前大統領が進めていた、ポーランドとチェコにミサイル防衛のレーダー基地とミサイル基地を配備する「東欧ミサイル防衛(MD)計画」。オバマ大統領が、この計画を実質的に中止すると発表した。

 MD計画はイランのミサイルを迎撃するためのものだが、ロシアは「ロシアのミサイルも対象としている」と強硬に反発していた。オバマ大統領の決断をロシアは大いに歓迎している。

 これでロシアとNATO(北大西洋条約機構:米国を中心に北米と欧州各国が加盟する軍事同盟)の関係は雪解けに向かうだろう。ロシアと欧州の関係は落ち着いたものとなっている。冬にまたウクライナ経由のガスの問題が出てくるかもしれないが、今まで通り、何とか妥協点を見出して解決するはずだ。

ロシアにかみつくグルジア

 しかし、この関係に影を落とす問題が、少なくとも2つ残っている。

 1つ目は、ちょうどこの記事の公開時期に開催される欧州会議(「欧州評議会」とも呼ばれる)で、ロシアにとって不愉快な出来事が起きそうだ(会議は9月28日から10月2日にかけて開催)。

 2008年のグルジアとの戦争に伴って、ロシアは南オセチアとアブハジアの独立を承認した。だが欧州各国はこれを認めなかった。それどころか、ロシアも加盟する欧州会議は承認の撤回をロシアに要請する決議を採択した。ロシアはこの決議に従わないと明言している。

 これを受けてグルジアは今回の欧州会議で、ロシアが決議不履行だという理由で、ロシア代表団の発言権を剥奪する決議案を議題にすべきだと提案した。

 ロシア議会は、もしこういうことになればロシア代表団に「退席すべし」と指示している。ロシアのメディアは、今回の欧州会議のセッションで「一波乱起きそうだ」と推測している。

欧州人権裁判所の権力強化に反発

 もう1つの問題は、欧州人権裁判所のいわゆる「第14号議定書」への批准に関することである。欧州人権裁判所とは、欧州会議加盟国の人権侵害事件に対する裁判を行う組織だ。

 第14号議定書は、裁判の判決スピードを速めるために、その手続きを簡略化するための文書である。この議定書の第8項に、「判決を下すのは3人裁判官委員会で、被告国家を代表する裁判官を入れずに判決を下すことができる」という規定がある。これに対して、ロシア議会の不満が高まっている。

 「第10項」と「第16項」もロシア議会から見れば、受け入れ難い規定である。その規定によれば、「欧州会議の閣僚委員会は被告国家への審問や説明を通じて、判決の実行方法を決めることができる」。欧州人権裁判所の権力を強化するこの規定に対して、ロシア議会は「人権裁判所の本来の役割を超えている」と反発している。

 しかしごく最近になって、ロシア議会は第14号議定書の批准を再検討し始めた。9月18日、スイスを訪問していたメドベージェフ大統領は、「議定書批准に向けて動き出した。今、人権裁判所との間で規定の調整を行っている」と述べていた。ロシア議会筋は、「調整がうまくいけば1日も早く批准する構えがある。できなければ調整の仕事を続ける」と説明している。

 ロシアの立場が軟化した理由は何か。直接的には、今度の欧州会議で、グルジア問題と裁判所の問題という2つのプレッシャーが重なることを避けるためである。

 だが、根底には、欧州との関係を、より良好なものしたいというロシアの姿勢がある。