4日に発表された米8月の雇用統計で、失業率は9.7%(前月比+0.3%ポイント)と、市場予想中心より悪い水準。非農業部門雇用者数は▲21万6000人で、市場予想中心よりも小さなマイナス幅にとどまったものの、前月・前々月分が計▲4万9000人の下方修正になったことを踏まえれば、予想からさほど乖離しなかったと言える。
米国の雇用情勢は、景気サイクルの一致指数である非農業部門雇用者数でみた場合、悪さの度合いは確かに、徐々に緩和してきている。しかし、雇用者数が減少を続けており、雇用情勢の悪化が続いているという事実は動かない。
非農業部門雇用者数は今回8月分で、ついに20カ月連続の減少になった。むろん過去最長記録である。この間の雇用者数減少幅の累計は▲692万9000人になった。ただし、8月の▲21万6000人という数字は、「リーマン・ショック」発生直前の2008年8月(▲17万5000人)以来の小さなマイナス幅。ショックが加わるよりも前の悪化ペースに戻ってきたということである。
白川方明日銀総裁は8月31日に大阪で行った講演の中で、今般の世界景気悪化について、米国での大きなバブル崩壊後のバランスシート調整に原因がある「慢性症状」と、リーマン・ショック後の流動性危機から急激な景気悪化が引き起こされた「急性症状」の2つに分けた説明を行った(9月3日「『自信が持てない』各国中央銀行」参照)。説得力のある整理である。各国の政策当局が政策総動員で対応したことが功を奏し、流動性危機は解消に向かい、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は大幅に低下。金融市場は、政策効果頼みながらも一応の安定を取り戻した。「急性症状」がなんとか取り去られ、「慢性症状」だけの状態に戻ってきた、というように事態の推移を理解することができる。したがって、米国の雇用情勢は決して、「もう大丈夫だ」ということではない。「これからがむしろ本番であり長丁場だ」ということであって、安易な楽観は禁物である。