日々耳にするのは暗い話ばかりだが、目を凝らすと、このご時世でも強い自治体や企業が見出せる。本書は、独自の取り組みを実らせて活力がある地域や企業を訪ね、現状の行き詰まりを打破するヒントを探った本である。

寒天を作って売り48期連続の増収増益、伊那食品工業

腹八分の資本主義 日本の未来はここにある!』篠原匡著、新潮新書、680円(税抜)

 寒天という地味な分野で48期連続の増収増益を続ける「伊那食品工業」(長野県伊那市)、出生率を2.04に向上させた長野県下條村、従業員の9割が障害者で、障害者を納税者にしつつ会社のビジネスも成功させているスウェーデン・ストックホルム市の「サムハル」などを紹介している。

 急成長した企業を紹介するのがビジネス書の常だが、この本の第6章で紹介される伊那食品工業は、身の丈にあった「持続的な低成長」を志向してきた会社だ。急成長しても反動が来れば、設備の廃棄、給与カットや人員削減、最悪の場合、廃業が起こり得る。

 企業は木の年輪のように緩やかに成長して社会に根を下ろせばよいと考える同社は、総勢約400人の従業員のほとんどが正社員、バブル崩壊後に多くの企業が捨て去った「終身雇用」と「年功序列」を頑なに守っている。

 1958年の創業以来、48期連続増収増益という「持続的な低成長」の理由は、寒天という成熟商品の新用途を開発し、特許で60件、1000種超の商品を生み出してきたからだ。成長で得た利益は研究開発費に多く割く。新しい技術や商品は一社員だけの力ではなく、企業体があって生み出されたもの。

社員の給料までエブリデーロープライス?

 社員の立場で考えれば、教育費や住宅ローンなどの出費がかさむ40~50代が高賃金になるべき。「どんなに儲けている会社があったって、従業員が貧しくて、社会に失業者があふれていれば、それには何の意味もない。世界一売る小売りが米国にあるけど、従業員の10%近くが生活保護を受けているという。それで『エブリデイロープライス』。いったい何なのって思うだろう」 (塚越寛会長)と、満腹まで欲張らずに企業を存続させていく、「腹八分」の経営が紹介されている。