また、今年7月14日には、中国政府の中国科学技術部、財政部、教育部、国務院国有資産監督管理委員会、中華全国総工会、国家開発銀行の6部門が、共同で「国家技術イノベーションプロジェクト」をスタートさせた。
ここでは、企業主体で市場志向の企業・大学・研究機関連携のイノベーション体系の形成・改善や企業の自主開発能力の大幅な向上、重要分野と重点業種における技術の対外依存度の引き下げ、科学技術と経済発展の密接な結合の実現等が目標となっている。
他方、イノベーションは人材からというわけで、これまで海外にいる中国人研究者を呼び戻す人材政策を積極的に導入していたが、これに加え海外から優秀な人材を招聘する計画をぶち上げた。
今年2月に発表されたいわゆる「千人計画」である。この計画では、今後5~10年間に海外から1000人のトップレベル人材(経営者、技術者、科学者等)を招聘し、高等教育機関、科学研究所、企業、商業金融機関のトップや高級専門職に就いてもらう。
さらには、重大な科学研究計画や国家基準の制定、重点プロジェクトの建設などのリーダーや顧問として携ってもらうというのである。当然有り余る外貨準備にものを言わせ高額な報酬も用意している。
このように中国は国策として強力にイノベーションの振興を図っているのである。日本の大学や企業が、中国に追い抜かれる日も遠からずやってくるかもしれない。
本当のシリコンバレーへの遠い道のり
しかし、このような国家主導の政策で海外から優秀な人材が集まる本家シリコンバレーを超えることができるかは疑問である。
シリコンバレーの強さは、ICT(Internet Communication Technology)産業の中心地というだけでなく、今後のリーディング産業と成り得るバイオやナノテクノロジーなど、絶えず新しい分野を見つけ、革新的技術、商品を開発し続けるメカニズムを持っている点である。
しかも、シリコンバレーは、単に技術開発するだけでなく、技術を商品化し市場に出して実際の富を生む力とスピードも併せ持っている。それは現地の言葉で Social Innovation(社会的革新)に向けた継続的な努力と表現されている。
上海市・浦東は中国の先端都市の1つ。浦東国際空港では、利用者の急増に対応して08年4月に第2ターミナルが開業した〔AFPBB News〕
その地に住む人たちが、絶えずイノベーションを生む機能をもったコミュニティーを維持・強化し、生活環境や社会システム・人間関係を改善発展させ、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)を発展させる努力を指すのである。
シリコンバレー成功の本質は、このような文化的風土にある。人種、性別、年齢、宗教等にかかわらず、誰もが自由に競争市場に参画でき、実力次第で大きな成功のチャンスが得られるという、「市場原理」を中心とした機会均等かつ個人尊重の文化である。これは、米国の優れた文化であり、シリコンバレーはこれが最も凝縮された地域と言える。
米社会学者リチャード・フロリダは著書の『クリエイティブ資本論』(原題:The Rise of The Creative Class)の中で、「経済成長、イノベーションの集積には3つのTが必要だ」と説いている。3つのTとは、Technology(技術)、Talent(人材)、Torelance(寛容性)である。中でもフロリダは、人材と寛容性を重視している。創造的な人材を集めるには、地域社会の寛容性、すなわち自由であることが重要なのだという。
北京の中関村も上海の浦東も中国の他の地域と比べれば「市場原理」も貫徹し、「自由」や「寛容性」はあるかもしれない。しかしそれはあくまで中国の国内基準に過ぎない。
シリコンバレーのように創造性を発揮させ、イノベーションを進めるには、その根幹である民主化を進めることが前提となる。中国が越えるべき壁はまだまだ高い。