19日の上海株式市場で、総合指数が前日比▲125.300ポイント(▲4.30%)の急落。終値は2785.584となった。4日に年初来高値を記録してから2週間強で、約2割も下げたことになる。ミニバブル崩壊の印象が強いが、その背景にある要因は2つ。まず、中国当局の景気刺激策の限界が見えていること。公共投資上積みや家電などの販売促進策などを行ってきたが、景気指標には頭打ち感が漂い始めている。
中央政府の財政赤字増大懸念や、地方政府の資金調達難もあって、第2弾の刺激策が出てくる兆候はない。さらに、融資の急増を促すという金融面の手法を併用することによって、かなりの程度人為的に成長率のかさ上げを実現しようとしてきたものの、株式や不動産に資金が流れ込む弊害が目につくようになり、融資急増が招いたひずみをどうするかという問題が急浮上。政府・人民銀行が金融緩和路線を修正するのではないかという警戒感が広がっている。
英国では19日、8月5、6日に開催されたイングランド銀行金融政策委員会(MPC)の議事録が公表された。資産購入プログラムに500億ポンド上乗せする量的緩和拡大策を決めた時のものだが、驚くべきことに決定は全員一致ではなく、6対3の多数決。反対票は、拡大反対ではなく、上乗せ額を500億ポンドではなく750億ポンドとするよう主張する、より積極的な量的緩和の主張で、キング総裁、ベスリー委員、マイルズ委員の3名だった(キング総裁が票を投じた意見が否決されたのは今回で3度目)。
キング総裁はインフレ報告を公表した際の12日の記者会見で、「インフレに大きな下方リスクがあることは非常に明確だ。(量的緩和の拡大に)人々が驚いたことが、驚きだ。われわれはインフレ見通しを考えて、そうした措置を取った」と発言していた。議事録によると、750億ポンド拡大を主張した、キング総裁を含む3名は、「大規模な金融面からの刺激を追加することにより引き起こされるかもしれない悪い結果の方が、慎重に行動しすぎて引き起こされ得るコストよりも、深刻さはより小さいかもしれない」と主張した。「日本の教訓」が、この3名には十分に浸透しているようである。
なお、英国では同じ19日に、世論調査で与党労働党を大きくリードしている野党保守党のキャメロン党首が、膨張する英国の政府債務に警告を発していた。英国債の格付け見通しをS&Pが5月にネガティブに引き下げたという状況のもと、財政面からの追加的な景気刺激策は、まったく視野に入ってこない。むしろ、総選挙後の政権が財政緊縮に動かざるを得ないことが、英国経済の先行きに暗い影を投げかけている(「『日本の教訓』、英米が直面する『現実のカベ』」参照)。
ドイツでは19日に、欧州中央銀行(ECB)内でタカ派の代表格として知られるウェーバー独連銀総裁が景気の現状について、次のように非常に厳しい警告を発したことが目を引いた。独紙ディー・ツァイトに語った内容を、英紙フィナンシャル・タイムズなどマスコミ各社が伝えた。
「われわれが現在目の当たりにしている回復はその大部分が、公的部門による支援策、すなわち金融緩和や銀行部門支援策、景気刺激パッケージに依存している」
「支援措置を撤回するのは時期尚早だ」
「経済はまだ、自分の足では立っていない。そして金融市場はまだ中央銀行の支援に依存している」
ウェーバー総裁は、仮に経済成長が加速するとしても、昨年見られたような繁栄した水準が取り戻されるのは2013年になってからだろう、と予想。さらに、「次の10年間の経済成長率のトレンドは、過去10年間よりも低いものになる危険がある」と警告した。これは、ドイツの主要な政策当局者の口から出た、おそらく初めての「失われた10年」への危惧の念ではなかろうか。
日本では最近、株式市場まわりの人々の間で、日本や米国経済ひいては世界経済全体について、楽観論を唱える向きが徐々に増えていると聞く。確かに、生産関連指標は上向いており、大手輸出企業の業績は改善した。しかしそれらは持続性を伴うものだとは言い難い。
日米欧の政策当局者の間で、ここにきて楽観論に傾斜している向きは、非常に少ないのではないか。むしろ広がっているのは、「言いようのない不安」なのではないかと、筆者は推測している。政策総動員でも、実現できたのは経済・金融情勢の安定化までであり、しかも、この先の経済政策運営には「手詰まり感」が非常に強い。タカ派であるはずのウェーバー独連銀総裁の厳しい警告は、示唆に富む。
筆者は引き続き、景気「二番底」懸念およびデフレ懸念の強まりから、秋以降年末にかけて、株安・債券高の流れに入っていくだろうと予想している。19日の国内債券市場では、短期および中期ゾーンの金利低下が目立った。「頭を押さえ込まれた鯛」のシナリオは、引き続き十分にワークすると考えている。