日本と違って、現在のロシアの総選挙は劇的に政局を変えるものではない。率直に言って、総選挙が新しい政権を作り出す可能性は皆無である。当面は「二頭政権」による「政治的な安定」が保たれる公算が大きい。
とはいえ、経済危機によって二頭政権の人気が落ちているのも事実である。最近、原油価格の上昇のおかげで経済は回復の様子を見せ始めているものの、国民の生活は依然として厳しい。政権に対する不満がたまっている。
モスクワ市議会選で与党の圧勝は確実?
そうした状況なだけに、来る10月11日に開催されるモスクワ市議会の選挙は大いに注目される。モスクワはロシアの首都であり、政治、経済、文化の中心である。それゆえ、主な政治勢力はこの選挙をミニ総選挙と見なして、準備に追われている。
選挙は、モスクワ市議会の35議席を巡って行われる。現在、議席の内訳は、与党である「統一ロシア」の議員が29人。野党は「共産党」の4人と「統一民主主義者・ヤブロコ(中道民主派)」の2人しかいない。本当の民主勢力と言える代表は、ヤブロコの2人だけである。
その1人である「ヤブロコ」の党首、グリゴリー・ヤブリンスキー氏は8月4日、独立メディアとして有名な「エホーモスクヴィー(モスクワのこだま)」の番組に登場し、10月の選挙の予測について話をした。
「与党の圧勝は確実だろう。ヤブロコとしては、現在の2議席を維持することが課題である。できれば3議席まで増やしたい」と語っていた。
ヤブリンスキー氏の見方はずいぶんと悲観的だが、やむを得ない事情がある。つまり、選挙の環境が与党に極めて有利にできている。まず、出馬するためには政党として7万8000人の市民の署名を集めなければならない。野党の場合、大変なことである。
ヤブロコのメンバーは署名を集めるためにモスクワの繁華街に繰り出したのだが、選挙法違反の疑いで警察に検挙された。ヤブロコは警察に暴行されたと裁判に訴えた。裁判所は警察の行動は適切ではないという判決を下し、ヤブロコの活動はようやく正当化された。
野党にとっての第2のハードルは選挙区である。小選挙区と比例代表区の両方があるのだが、小選挙区で与党が圧倒的に強い。与党は支配党の立場を利用して小選挙区の数を増やし、17区にした。その全部で与党が勝つに違いない。残っている比例代表の18議席でどれだけ議席を取れるかが、野党にとってのかすかな望みである。
ロシアには、自由と民主主義よりもしっかりとした秩序を求める有権者が圧倒的に多い。だが、民主主義への希望を抱いている有権者も中には存在する。その存在は野党にとって心強い味方となる。