「5ポンドでいいんだ。5ポンド。どうして買わないんだ」

 カイロの安宿の外で叫ぶ物売りの声で目が覚める。

 旅をして思うのは、日本人が発展途上と呼んでいる国の人々は非常に商売熱心であり、その手法はアイデアや工夫に富んでいるということだ。

 エジプト人は商売やその他においてもバイタリティーにあふれ、押しが強いし、情も引く。手練手管に長けている。街を歩いていて店をひやかしで覗いたら最後、その後は断っても断っても食い下がり、商売を成立させようと懸命だ。

 エジプト人は、半世紀以上、英国の植民地だった時代があったためか、英語を流暢に話す。それは分かるのだが、英語以外にも日本語を話す男が多い。

 日本の言葉を話す輩が多いのは、エジプトに限ったことではない。トルコ、インド、インドネシアなどの観光地でも同様である。

 日本語を話せればカネを持っている日本人の男は商売のカモに、女はガールフレンドに・・・、そんな思惑なのか、男たちは日本語の学習に精を出す。

エジプトのジゴロと白人女性の魔窟

今ここ!
エジプトのハルガダ

 シナイ半島にあるハルガダという街は紅海に面しており、ダイビングで世界的に有名なリゾート地である。カイロからエジプトアッパー社のバスに乗って砂漠の道をひた走り、海岸に出てから北上し、ハルガダのバスターミナルへ到着したのは夜10時。

 ホテルを探そうと、行列するタクシーに乗り込もうとしていた時、「こんばんは。お疲れさまです。宿、探してるんですか?」と流暢な日本語で呼びかけられた。驚いて振り返ると、背の高い、革のジャンパーを着た愛想のいい男が満面の笑みを浮かべて寄ってきた。

 「私の妻は日本人です。私はムハンマドといいます。私のホテル、1泊30ドルです。海の前の眺めの良い部屋がありますよ。気に入らなければ宿泊しなくていいですから見に来ませんか」と言うので、一緒にタクシーで彼のホテルに向かった。「ホテル・ヴィクトリア」はピンクと白に彩られた洒落た外観で、海岸通りに面していた。

ハルガダの海

 私はホテルの海側の部屋にチェックインし、ムハンマドとバーでビールを飲むことにした。ステラビールのネオンが点滅する1階の「ネフェティティ」。古代エジプト女王の名前を付けたこのバーの店内は紫煙と喧噪に包まれていた。

 ムハンマドによるとハルガダはエジプトのジゴロとの出会いの街として、欧米では有名な街らしい。店内は、褐色で髭の濃いエジプト人男性と白人女性というカップルの魔窟然としている。

 すでに老境の域にある白人女性が厚化粧にドレスアップして孫のような年代の男とベッタリ寄り添っているかと思えば、英語を話す若く太った女の周りに数人の男たちが取り巻き、女は女王様状態。肉を揺さぶりながら、はしゃいでいる。40過ぎの金髪の女が目ヂカラの強い無精髭の渋い壮年男に静かに肩を抱かれながら水煙草を愉しんでいたりと、皆、それぞれに春爛漫の様子である。アラブ人ホストクラブのようなこのバーには、白人同士の男女のカップルは皆無である。