病院に欠けているのは「経営力」だという声を聞くことがあります。

 最近も、「日経ビジネス」(7月6日号)が「『医療崩壊』のウソ」という特集を組み、「マネジメントが危機を救う」という内容の記事を掲載していました。

 その特集では、米国の医療現場がトヨタ方式の小さな「カイゼン」を積み重ねて、「たらい回し」をほぼゼロにした事例などが取り上げられていました。経営力で医療の「質」向上を図り、病院間の連携を高めていったといいます。

 特集内の個々の記事は、現時点で解決すべき問題をきっちり示しており、よくまとまった記事だと感じました。

マネジメントの効果があるのは間違いないのだが

 ただし、医療現場で働いている者にとっては、どうしても違和感を感じざるを得ない点があったことも確かです。

 その特集では、「日本の医療に求められているのは『マネジメント力』」「医療界よ、他産業に学べ」「病院経営に関わる企業人が増えていけば、医療の質と効率性を高める動きが加速する」といったことが唱えられていました。

 個々の部分については全くその通りだと思います。ただし、全体を貫く「マネジメントで医療崩壊は簡単に防げますよ」というスタンスには、本当にそうだろうかと首をかしげてしまうのです。

 病院にしっかりしたマネジメントや細かい改善が必要なのは、まったく異論がありません。

 ただし、忘れてはならないのは、医療改革においては「質の高い医療」の実現こそが達成すべき主目的だということです。マネジメントは「質の高い医療」を達成するためのツール、つまり、サポート因子の1つに過ぎません。

 世界金融危機を見通していたとして話題になった『ブラック・スワン』というビジネス書があります。著者のナーシム・ニコラス・タレブ氏は、「黒い白鳥がいる証拠はないこと」と「黒い白鳥がいない証拠があること」を取り違える「講釈の誤り」を人々は起こしがちであると解説しています。

 確かに医師はマネジメントの知識が少なく、病院の経営力は一般企業に比べて十分でないと言えるでしょう。

 でも、それは「マネジメントをしっかりすれば問題は解決する」ということとイコールではないはずなのです。

医療関係者と一般の人たちの感覚は違うのか

 ほぼ同時期に、日経BP社のWebサイトで、「医師の増員に賛成か反対か」を読者に問うアンケートが実施されていました。医療専門サイトである「日経メディカルオンライン」と、一般ビジネスパーソン向けの「日経ビジネスオンライン」が共同で実施するという大変興味深いアンケートでした。