今、アラブ諸国のデモが変わりつつある。
アラブ諸国でも、これまで、幾度となくデモは繰り返されてきた。しかし、これまでは、ほとんどの場合、政府の統制下で行われ、「ガス抜き効果」を狙ったものに過ぎなかった。
ところが、近年、アラブ諸国でも、これまでとは様相を異にする新たなデモのパターンが確認されるようになってきた。典型的な事例は、2008年春にエジプトで発生した食料価格高騰に反対するデモだ。このデモがユニークなのは、参加者7万~8万人の大半が、「フェースブック」と呼ばれるインターネット上のサイトを通じて集まった若者だったことだ。
「フェースブック」とは、いわゆる「SNS=Social Networking Service」と呼ばれる、ネットワーク作りをサポートするコミュニティー型のサービス。日本では、「ミクシィ」や「グリー」が有名だが、「フェースブック」は世界中で利用され、会員数も1億人を超えるなど、世界規模のSNSの1つとなっている。
エジプトでは、さらに、2008年4月の繊維産業労働者たちによるストライキでもインターネットサイト経由の呼びかけに多くの若者が応じ、7万人規模の青年運動にまで発展した。
政治とは無縁の学生がデモに参加
これまでアラブ諸国でのデモといえば「反イスラエル」であり「パレスチナ支持」と相場が決まっていた。それ故に、政府は鬱積する民衆の不満の「ガス抜き」としてデモを利用してきた。ところが、昨年春のデモは、不満の矛先が直接自国政府に向けられていた。さらに、デモに参加した人の多くは、これまで政治運動とは全く無縁だった比較的高学歴の若者だったことも、これまでのデモとは一線を画する特徴となっている。
実は、こうした新しいICT(Information and Communication Technology)を利用した群衆の組織化や、そのことによる政治的インパクトについては、非アラブ圏においても広く確認される現象であり、既にいくつかの論考が発表されている。
例えば、米評論家のラインゴールドは、こうした活動や現象を「スマートモブ=賢い群衆」と名づけている。ラインゴールドは当初、SMS(Short Message Service)と呼ばれる携帯電話のテキストメッセージを利用して組織化・群衆化される人びとに啓発されてこの用語を生み出したが、インターネットのSNSによって組織化される人びとも同様の特徴を備えているため、彼らもまた「スマートモブ」と呼ばれる。
スマートモブが政権を揺るがす
「スマートモブ」たちは、これまでアジアの国々で少なからぬ政治的なインパクトを与えてきた。例えば、フィリピンではスキャンダルの追及を受けていたエストラーダ前大統領が、携帯電話のSMSを通して大統領府前に集まってきた群衆によって辞任に追い込まれている。