ここ数年のクラウドコンピューティング普及の流れの中で、企業のIT活用にはいくつもの変化が生じてきているが、その1つとして、いずれ「IT予算がなくなる」という時が来るかもしれない。

 かつて大企業のCIOの面々は、「200X年度、IT予算ン百億円」というように、派手な戦略的投資を発表し、それが一種の経営の勢いの象徴ともされていた。

 それを聞いて、IT企業各社は色めきたち、その予算の一部をどうやって自社製品に振り向けてもらうかを考えるのに四苦八苦したものである。

 しかしこういう状況も、ここ数年はリーマン・ショック、東日本大震災、という大きな逆風を経験して、明らかに変化してきた。そして今となってはクラウドという選択肢も出てきて、従来の括りでIT予算を見ること自体に無理が出つつある。

従来のIT予算は何のための費用だったのか

 かつての大規模IT予算というのは、分かりやすいものとしては、ソフトウエア製品、データベース製品などのライセンス費用、それらをインストールするサーバー等の製品。さらに導入するために必要な開発費用であった。

 そして、それらのシステムを安定的に稼働させるための、保守運用費用というのが毎月数千万円、数億円というレベルで発生し(実は導入費用よりも保守費は圧倒的に巨額である)、気がつくと膨大な予算計上が必要となっていた。

 持っているだけで、とてつもなくお金がかかるのがITシステム。業務を少しでも効率的にしたり、データを多くの人が見えるようになったり、そういう便益を得るだけのために、とてつもない費用が必要だったのだ。

 しかし、冷静に考えてみてほしい。必要なのはシステムという「モノ」ではなくて、そこから得られる「コト」である。まさにマーケティングの大家、セオドア・レビットが大昔に「消費者はドリルが欲しいのではなくて、ドリルであけた穴が欲しい」と言っていたことそのものである。