北朝鮮に旅立つ前、いくつかの課題を温めていた。

 金正日の後継者と言われる金正恩についての動静は「北朝鮮をゆく~その2」で述べたが、そのほかに飢餓の現状やチュニジア発のジャスミン革命の余波がどう影響しているかを探りたかった。

アフリカ以上に食糧事情が悪いはずなのだが・・・

平壌市中心部の蒼光通りを歩く家族連れ

 観光者に好き勝手なことをさせないことを信条とする独裁国家なので、北朝鮮にとって不都合な場所やイベントへは、ガイドが案内しない。

 だが、農村や地方都市を訪れた時に反政府デモに遭遇しないとも限らない。農村を走り回れば、飢餓の一端は垣間見られるかもしれないとの期待があった。

 北朝鮮の食糧事情の悪さはおおかた予想できていた。出発直前の国連発表のニュースでは、人口の約25%にあたる600万人が深刻な食糧不足に苦慮しているとの内容があった。国連は国際社会に47万5000トンの食糧支援を勧告してもいた。

 国民の4人に1人が飢餓状況にあるとの報告は、アフリカや南米の発展途上国以上ですらある。以前そうした国を訪れた時、地方の農村などでは車から降りるや否や、子供たちが瞬時に集まって手を差し伸べてきた。

 少年少女たちは時に裸足であり、衣服が汚れて、下半身が剥きだしということもある。小銭でも菓子でも、こちらが差し出すものは何でも受け取る。

あまりにもまともな身なりの子供たち

 振り向くと10人くらいの子供たちが重なり合っていることさえある。そしてその場を車で去るまでついて回る。当然、北朝鮮でも同じ光景に遭遇すると予想していた。

 だが首都平壌の町を歩いて、あまりにも市民の身なりがまともであることにむしろ驚いた。子供たちの表情も豊かで、餓えに苦しんでいるといった様子はない。

 「平壌は北朝鮮の中でも選ばれた人が住んでいますから」

 ガイドは言った。平壌の320万という市民は北朝鮮の中でも選民であり、他地域の人民とは違うという。