6月14日、ロシアの求心力低下を感じさせる事件がモスクワで起きた。

 この日、独立国家共同体(CIS:ソ連邦の旧共和国が結成した国家連合)の各国首脳が集い、集団安全保障条約機構の会議が開かれた。会議では、「集団緊急展開軍」の設立に関する協定の調印式が行われた。

 だが、ベラルーシの大統領がモスクワへやって来ず、会議をボイコット。ウズベキスタンの大統領は会議に参加していたが、文書への署名を行わなかった。

 集団緊急展開軍の編成は、2001年にアルメニアの首都、エレバンで決定された。しかしその後、話が進まず、今まで実現できなかった。ここに来て、やっとその目的、構成、権限などに関する合意文書ができたのである。

 それなのに、加盟予定だったロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンという7カ国の中で、2カ国が加盟を拒否した。これはロシアにとって予想外の痛手だった。

 北大西洋条約機構(NATO)と複雑な関係にあるロシアは、集団緊急展開軍の設立に期待をかけていた。テロ、犯罪および麻薬対策だけではなく、地域紛争、国境侵害などの場合も出動できるからだ。

 CISの領域内で起きる紛争にロシア軍だけが出動したら、世界から何を言われるか分からない。それを避けるためにもロシアは集団緊急展開軍の編成を望んでいた。集団緊急展開軍は、1万4000人から2万人までの兵力を持つ予定だった。

ベラルーシとウズベキスタン、署名ボイコットの背景

 ベラルーシとウズベキスタンが署名をボイコットしたのには、次のような背景がある。

 まず、ベラルーシ大統領は、ロシアがベラルーシ産牛乳の輸入を禁止したことに憤慨し、その仕返しとして会議に参加しなかった。

 ロシア外務省は、ベラルーシが貿易摩擦問題を持ち出して国の安全にかかわる協定を拒否するのは「不条理であり、破損的な行為である」と怒りを隠さない。

 ベラルーシは、グルジアから離脱した2つの共和国を、いろいろな口実をつけてまだ認めておらず、「今後も認めるつもりはない」とロシアに通達している。これに対してクレムリンからは、ベラルーシに「天然ガス戦争を仕掛けるのもやぶさかではない」との声が聞こえてくる。

 ロシアとベラルーシの関係は、エリツィン時代からひと言で言えば「メチャクチャ」である。ソ連邦の旧共和国との間にいつまでも「友情」が続くわけではない。その格好の見本と言えるだろう。

 ウズベキスタンの態度もロシアにとって頭痛の種の1つだ。カリーモフ大統領は風見鶏のような行動を見せていて、ロシアに接近したり、遠ざかったりしている。ロシアにとってちっとも信頼できるパートナーではない。

 この間、ウズベキスタンと隣のキルギスとの関係は悪化し、国境線で武力衝突も起きた。これを伝えたウズベキスタンの通信社は、「集団緊急展開軍設立の協定なんかよりも、各国が不可侵条約を結ぶ方が適切ではないか」と皮肉っている。