「100年に1度」とうたわれた経済危機。世界各国が財政と金融を総動員した結果、どうにか「底なし沼」からは脱したように見える。景気センチメント指数の改善を背景に、投機マネーが運用を再開し、需要を先取りする形で商品価格の上昇を演出している。(コラム中の各種グラフも筆者作成)

 その一方で、インフレ懸念が徐々に台頭し、長期金利は足元上昇傾向にある。各国の中央銀行のうち、物価安定を重視するのが欧州中央銀行(ECB)。商品市況がもたらすインフレ懸念に敏感に反応し、利上げに最も近い位置にいる。

 大恐慌が教訓となり、今回の危機では中央銀行が積極的な信用緩和策を打ち出し、景気底打ち感が台頭した。しかし、実体経済の活動はまだ明確な回復軌道に乗っていない。

 こうした中、仮にECBが金融引き締めスタンスに転じると、今まで各国の中央銀行が続けてきた信用緩和策が逆回転しかねない。再び信用収縮が起これば、世界景気は二番底をうかがう事態となり、株価も軟調地合いに逆戻りするだろう。換言すれば、その舵取り次第でECBが世界景気のトリガーになりかねない。

中央銀行が行った信用緩和策

 2008年9月のリーマン・ショック以降、各国の中央銀行は相次いで「金融緩和」と「信用緩和」を断行した。

 このうち、米連邦準備制度理事会(FRB)は短期の政策金利を引き下げる一方で、住宅ローン債券の購入を通じて住宅ローン金利の引き下げを図った。また2008年12月に長期金利の水準に言及した後、今年に入ってからは国債買い入れに踏み切った。イールドカーブのフラット化を強力に促し、信用緩和を実現している。

 米国BB格付け製造業10年物社債と国債との利回り格差を、上記のグラフで示してみた。中央銀行による積極的な信用緩和策により、2009年春頃から低格付け企業にまで緩和効果が波及し始めたことが確認できる。