1 はじめに

 さる3月11日に惹起した東日本大震災により東北地方は未曾有の災害に見舞われ、戦後最大の災害になった。

 今次大震災は、超巨大地震とそれに伴う津波被害という自然災害に加えて、それに起因するとはいえ、原発や石油コンビナート(特に原発だが)の災害という近代的な災害の2つながらに見舞われたということとにある。

 また、阪神・淡路大震災に比して被災地域が極めて広大であるということも今次大震災の特色であろう。今次大震災への政府の対応はどうであったのか、誤解を恐れずに言えば、大いに問題があると言えよう。

 その最たるものが、国難とも言えるこの様な緊急事態に対して、我が国が機動的・機能的に対処できるようになっていないということである。国家の緊急事態に対して、いかに取り組むかの枠組みが整備されていないことが問題である。

 今次大震災でも、全体を把握し大所高所から状況を判断し指揮命令できる強力な司令塔が存在し、事態に応じ先手先手で必要な処置をいわば特例的に実施し得る態勢が整っていれば、また必要により東電や民間の各事業者にも強い命令・指示ができていれば、歴史にイフはないし、今後の検証を待たねばならないけれども、危機の拡大は防止できたのかもしれない。

 平時の法規範で非常事態に対処するには無理があるのであれば、非常事態のみに適用し得る法規範や立法権限を行政部に与えてもいいのではないか?

 危機に際しては国が主導権を取らずして誰が取りえようか?

 国家の総力を結集して危機を収束させ、国家の復旧・復興を図ることが求められている。

 これらの問題を解決する方策は、非常事態に対する基本的な法律(緊急事態基本法)の制定、危機をマネジメントする組織の創設と人材の養成であろう。

 緊急事態法については、後述するように議論は出尽くしていると思料する。後は決断あるのみである。もちろんいかに効果的・機能的なシステムが構築されようとも、危機管理は人の属性に負うところ大ではあるが、システムが整っておれば更に効果的な危機対応ができたとも思える。
本稿では、我が国の緊急事態法に関する議論・争点を総括し、諸外国の緊急事態法制を瞥見し、現在までの経緯を概述し、現在ある程度オーソライズされていると考えられる案について私見を述べたい。