日ロ首脳が会談するイタリア・サミットまで、あと1カ月を切った。
5月中旬にプーチン首相が来日した際、イタリア・サミットでは領土問題解決に向けて踏み込んだ対話を行うと両国が合意している。
サミットで本当に何らかの妥協点を見出して、問題を解決することができるのか。当初から疑問の声はあったが、ここ3週間の経緯を見ると、かなり悲観的にならざるを得ない。ご存じのように麻生太郎首相の「不法占拠」発言があり、それに対してロシアが激しく反発したのだ。
ロシアの激しい反発をどう理解すればいいのか。ロシアにとって問題となったのは、発言の場所とタイミングである。
新宿西口の広場ではなく国会で、また首脳会談の直前の時期に、麻生総理は「北方4島は我が国固有の領土」「ロシアによる不法占拠が続いていることは極めて遺憾だ」と原則論的な立場を繰り返した。
5月30日には記者団の質問に答えて、「日本が独立した昭和27年から、(日本政府は)ずっと同じことしか言っていません」と述べた。そして、この「不法占拠」発言によって「イタリア・サミットで、私とメドベージェフ大統領との間で話がこじれるということはありません」と言っていた。
しかしロシア側はこの発言がありきたりのものだとは受け止めていなかった。イタリア・サミットで北方領土問題を話し合う時に、「原則論」にこだわるのが日本の基本的なスタンスだと確認したのである。
興味深い過去の政治家の発言
日本の国会の議事録は、現在、基本的にすべてデジタル化されているので、日本の歴代政治家の発言を調べることができる。調べてみたところ、総理大臣が「不法占拠」や「不法占領」と発言した回数は、案外に少ない。
一方、面白い発見があった。「不法に占領された領土」という表現が最初に現れたのは、日ソ(日ロ)関係が正常化する前の1952(昭和27)年4月26日、衆院外務委員会で北沢直吉議員の岡崎勝男外務大臣への質疑である。
興味深いのは、このやり取りでは歯舞と色丹だけが話題になっていることだ。
「抑留邦人の引揚げの問題、あるいは歯舞、色丹など現にソ連が不法に占領しておる日本領土の返還の問題、いろいろな問題があろうと思いますが、大臣が考えておられる日ソ間の懸案というものは、大体どういうものであるかということを伺っておきたいと思います」
北沢議員が言う「歯舞、色丹など」の「など」には、国後と択捉も入っていると解釈することはできる。しかし岡崎外務大臣の答弁には、「など」という言葉はない。
岡崎外務大臣は次のように答える。
「今お話の未帰還者の三十数万人の引揚げの問題もあります。それから漁夫、漁船の返還もありましょう。また中ソ同盟條約は、事実上日本を仮想敵国としておるような事情もあるように見受けられますので、この点の調整も必要じゃないかと思います。歯舞、色丹島の問題もあろうかと考えております」