バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が3日の米下院予算委員会で、現在の経済・金融状況と連邦予算について証言した。市場には、最近見られている米長期・超長期国債利回りの急上昇について何らかの政策対応が示唆されるのではないか、という期待があったが、直接の言及は行われなかった。

 FRBから公表された証言原稿で目立ったのは、財政再建論議をすぐに開始するよう、バーナンキ議長が強く要請した部分である。FRBだけでは長期金利上昇を抑制するのが難しいことが明らかになってきたため、議会と政府に対して財政政策面からの即時対応を強く要請した、という受け止め方もできるだろう。

 「確かに、米国の経済と金融市場は異様なまでの短期的な難局に直面しており、そうした難局に対処するための力強くタイムリーな行動が必要かつ適切である」

 「しかしながら、景気後退や金融安定への脅威に対応した施策を講じている時であっても、金融市場の信認を維持するため、われわれが国家として、財政バランス回復を今すぐ計画し始めることが要請されている(Nevertheless, even as we take steps to address the recession and threats to financial stability, maintaining the confidence of the financial markets requires that we, as a nation, begin planning now for the restoration of fiscal balance.)」

 「明らかに、議会と政府は、対処されるべき、非常に大きい短期的な難局に直面している」

 「長期的な財政の持続性についての強いコミットメントを明示することができなければ、われわれは金融の安定も、健全な経済成長も、どちらも手にすることができないだろう」

 また、質疑応答では最近の長期金利上昇の原因について、次のような発言があった。「悪い金利上昇」と「良い金利上昇」のミックスだという見解である。

 「ここ数週間、長期国債の利回りと固定モーゲージ金利は上昇した。これらの上昇は、巨額の連邦財政赤字に対する懸念を反映しているように見えるが、その他の原因もある。経済見通しについてのより大きな楽観論、『質への逃避』に動いた資金の逆流、モーゲージ保有のヘッジに関連したテクニカルな要因などである」

 財政再建計画の議論開始が「国家として」「今すぐ」必要だ、と強調したあたりに、バーナンキ議長の危機感がにじみ出ているように思う。では、なぜそこまで強い危機感を抱くに至ったのだろうか。筆者の考えではそれは、米国の経済政策運営で、「手詰まり感」が一層強まっているからである。

 急激に増発されている米国債の入札状況の不安定さ、米国債格付け引き下げ懸念の浮上、中国に米国債購入を続けてもらう必要性などに鑑みると、米国の財政出動は、現実問題としては、もはや限界である。追加的な景気刺激策については、自動車の買い替え促進策が議会で審議されてはいるものの、大規模な追加パッケージ編成の議論はほとんど立ち消えになっている。むしろ明確になってきたのが、信頼に値する財政再建プランの早期提示によって、グローバルに存在している米国債への投資を行っている市場参加者(含む中国政府)の信頼感をつなぎ留めておく必要性である。

 FRBが長期国債購入を継続・増額するかどうかという問題も、一筋縄ではいかない。筆者は、市場に金利低下方向に動く「きっかけ」を与えるために長期国債の購入継続・増額あるいは「時間軸」の強化を連邦公開市場委員会(FOMC)は決定せざるを得ないだろうと引き続き予想しているが、当局の側では、意見は分かれているようである(6月4日のフィナンシャルタイムズ・アジア版によると、FRB高官はそう多くない金額の購入上積みで金利上昇が止まるとみているものの、すでにアナウンスした金額までで購入を終了すべきという意見が一部にあるほか、非常に多くの金額を買い入れるべきだという少数意見もある、という)。

 大量の国債購入を実施すべきという議論はおそらく、マネタリーベースの増加を目的にそうすべきと主張している地区連銀総裁の一部から出ているものと推測される。しかし、それは「国債の貨幣化」ではないかという市場の疑念(ないしは投機的な仕掛け売り)につながりかねない。米国債ひいては基軸通貨ドルの信認が問われてくる上に、中国が外貨準備の運用で米国債(特に長期債)をあまり買わなくなるリスクが膨らんでくる。ガイトナー財務長官が中国を訪問して、米国の財政事情が改善に向かうことを説明しつつ、米国債のセールスプロモーションを行ってきた直後でもある。

 バーナンキ議長は今回の証言(質疑応答)で、「FRBには債務を貨幣化するつもりはない」「ドルが予見し得る将来に基軸通貨としての地位を失うリスクはない」と明言していた。

 このように、米国の経済政策運営には「手詰まり感」が色濃く漂っている。9月24~25日には米国のピッツバーグで第3回のG20金融サミットが開催されるが、その場でさらに財政出動を追加するといった合意がなされる可能性は非常に小さい(日本で総選挙後に誕生する新政権の財政政策運営にも影響を及ぼすことだろう)。