「世界経済の回復のためには、欧州が一致団結して取り組んでいくことが必要だ」。英国のブラウン首相は、5月28日の英経済紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、欧州の協調を訴えた。
米国では、ガイトナー財務長官が大手金融機関に対する特別検査(ストレステスト)を通じて、市場マインドのコントロールに一定の成果を収めている。しかし、欧州の金融対策は、リーマン・ショック直後の危機対応以降は目立った進展がない。世界金融危機は米国だけでは乗り越えることができない。次は、欧州の結束が試されている。
米国は5合目、欧州はスタートライン
国際通貨基金(IMF)が4月下旬に公表した「世界金融安定報告書」によると、2009年から10年にかけての欧州の銀行の損失見込額は9500億ドル(ユーロ圏7500億ドル+英国2000億ドル)で、米国の5500億ドルを大幅に上回る。銀行がコア自己資本比率4%を維持するために必要となる資本調達額は、米国の2750億ドルに対して、欧州は5000億ドル(ユーロ圏3750億ドル+英国1250億ドル)にもなる見通しだ。
米大手経済通信社ブルームバーグの集計でも、危機発生から足下までの銀行の実現損は、米州(北・中南米)が9700億ドルに達しているのに対して、欧州(英国も含む)は、半分以下の4500億ドルにとどまっている。
発足間もないオバマ政権が切れ目なく経済対策を打ち出したことで、米国の銀行の損失処理は5合目を越えつつある。これに対して、欧州はようやく長い山道の登り口に入ったところという印象だ。
英・独版バッドバンクは損失処理の先送り
米国の金融安定化策に相当する対策が、英国でも1月以降、段階的に発表されている。米国がシティグループやバンク・オブ・アメリカに対して実施したのと同様に、金融機関の保有資産の損失を政府が肩代わりする制度を導入した。
対象資産で一定金額以上の損失が生じた場合に、超過損失の大部分を政府が保証するというスキームだ。損失拡大リスクを限定する点はいわゆるバッドバンクと似ているが、資産は公的機関や官民共同ファンドのようなものに移さず、当該金融機関が継続管理する。