「本流トヨタ方式」の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 ここ数回、「(その4)現地現物」に関してお話をしてきましたが、今回は、現地に来て現物を見て「何を読み取るか」について考えてみましょう。

一目で「おかしい」と分かる時はもう手遅れ

 もし小学生が動物園に行って初めて「ペンギン」を見たとしたら、「2本足で立ち上がってヨチヨチ歩いていてかわいかった」という捉え方で十分でしょう。

 中学生だったら「ヨチヨチ歩いていて、どうやって餌を取るのだろう?」と疑問を持ち、水中を泳いでいるペンギンを観察し、餌を取る素早さを見て納得することでしょう。

 では飼育係はペンギンの何を読み取るのでしょうか。ペンギンは言葉を話せるわけでもないし、頷くことも、「イヤイヤ」もしません。餌の食べ方や歩き方、泳ぎ方などの日頃の動作のちょっとした変化を読み取り、それを手がかりにペンギンの健康管理をするのだといいます。このようにそれぞれのレベルに応じた「現地現物」があるのです。

 同じように、母親が赤子を育てる時も、管理者が自分の職場を巡視する時も、一目で「おかしい」と分かる状態になっていると、もはや手遅れの可能性が大きいのです。

 「ちょっと変な気がする」レベルで関知し、確認し、手当てすることで、大事に至らないうちに管理ができるのです。

 「神は細部に宿る」という言葉あります。「些細なこと」に目を凝らし、耳をそばだてている者にだけ、神様は兆しを見せ、ささやきかけてくれるのです。

自分の目と耳で現場を捉え、根拠のない「神話」を打ち崩せ

 筆者は、ものづくり経営のコンサルタント業をやっている関係で、多くの企業の役員や管理者にお目にかかり、現場を案内していただくことがあります。しかし、厳しい言い方をすると、案内して下さる管理者の中には、自ら「目を凝らし、耳をそばだてて」現場を歩いた経験が乏しいのではないかと思われる方が数多くいらっしゃいます。

 経営者や管理者の立場の方は、官僚で言えば「キャリア」の部類に属します。社内の各部署を数年ずつ経験して、より高い地位に昇進していくことになっています。