少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。
その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。
今回は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーを務めた西浦博・京都大学大学院医学研究科教授とNFI代表理事の森田朗氏によるスペシャル対談の前編。専門家会議の反省点や新型コロナウイルスの感染拡大が全国的に進む現状、あるべき感染症対策の形について、率直に意見を交わした(過去11回分はこちら)。
「今の日本の状況をとても懸念している」
森田朗氏(以下、森田):はじめに、新型コロナウイルス感染の現状について、どのように見ておられるのかということから聞かせていただけますか。
西浦博氏(以下、西浦):ここ最近、感染者が全国的に増えているのは皆さんご存知の通りです。とくに都市部で顕著で、「実効再生産数」、つまり1人の患者が何人の二次感染者を発生させているかという数で言うと、全国は1.6から1.7ですが、愛知県で2を超えたり、沖縄県で3を超えている状態です(1を超えれば感染が拡大し、1を下回れば収束する)。今の状況をとても懸念しています。
第一波の時は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が会見を通して、分析結果や必要となる行動変容などを直接国民に語りかけていました。こういった対策は国民生活や社会経済活動にも大きな影響が及びます。会見を通して直接語りかけるというスタイルは、専門家としての責任を果たそうと決めて始めたことです。
ただ、国民の目から見ると、専門家がすべての政策を決めていると感じられるようになってしまいました。実際のところ、そんなことはないんです。僕たちに政策決定権なんか何もないし、提言してもそうならなかったことなんてゴマンとあります。ただ、そう映ってしまったのは事実です。