北京オリンピックシーズンののちに備えてきたもの
2025年12月20日、全日本フィギュアスケート選手権、シングル男子、フリーで演技中の佐藤駿 写真/西村尚己/アフロスポーツ
そしてミラノ・コルティナオリンピックを目指してきた。その中で「やり続けた」のは4回転ルッツだと言う。羽生結弦に次いで日本人2人目として佐藤が成功させた高難度ジャンプだ。
2022-2023シーズン、どうしても決めきれず、全日本選手権や四大陸選手権のショートプログラムで4回転ルッツを回避したことがある。それはプラスに働かなかった。
「4回転ルッツを外すと簡単にノーミスできるかなと思ったら他のジャンプで失敗したんです。4回転ルッツを入れないことによって他のものが失敗する、あの子のモチベーションに4回転ルッツがあるというのは発見でした。そこで、調子が悪いからやめるのをやめようって話しました。そこからはあの子のモチベーションを生かして4回転ルッツを組み込んで締め続けた、やり続けてきたことが今につながっています」
こだわりを大切にしつつ、別の角度からも進化を期した。2020-2021シーズンを除き、佐藤は振り付けを国内で行っていたが、2023-2024シーズン、フリーを海外の振付師に依頼したのだ。それは名アイスダンサーとして知られるギヨーム・シゼロンだった。
「プログラムをどういう風に、誰に作ってもらうかを話し合っていて、駿の希望もあり、最終的にギヨーム・シゼロンに作ってもらう形になりました。そもそもはアイスダンスのクラブチームで、シングルとは違った雰囲気の中でスケーティングを磨きたいという形から始まりました。そのモントリオールのクラブには坂本花織ちゃんも行っていたのでどういうところか話は聞いていました。それもものすごくはまったなって思います。レッスンにしても馬が合うというんですか」
その影響も含め、北京オリンピックシーズンののちに備えてきたものを「色気」だと日下は言う。
「一昨年くらいからですかね。やっぱりモントリオールで見て学んだものっていうのは大きかったんだと思います。スポンジみたいな子で、何でも吸収してくる。取材のときとかは穏やかでのんびりしている感じがあって、でも芯があったり秘めた闘争心がものすごく強いですね。常に穏やかな子だったら、たぶんあんな舞台であんなことできないと思うんですよね。何よりも感情が安定している。悪いときなんて誰でも絶対あるんですよ。悪いときの方が多いと思います。そこでも気持ちを崩さない、そこがいちばん素晴らしいと思います」
日下のもとに来てから積み重ねてきたものがあっての今シーズンは、ルッツに限らず「やり続けた」成果であるだろう。
一連の話の中では、共通する意味合いの言葉が何度も繰り返された。「あの子の考えを優先」、「駿の希望もあって」……。選手の意向を尊重する姿勢が表れていた。
そこには日下自身のパーソナリティ、歩んできたスケート人生が反映されていた。(後編へ続く)
『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』著者:松原孝臣
出版社:日本ビジネスプレス(SYNCHRONOUS BOOKS)
定価:1650円(税込)
発売日:2026年1月20日
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日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルの取材をまとめた電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が2026年1月20日(火)に発売されます。
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