不良資産を消し去る究極のルール変更、その正体は「後出しジャンケン」。米国財務会計基準審議会(FASB)が4月2日、金融機関の保有する金融商品について、時価会計基準の緩和を決めた。腐った資産が見かけ上は圧縮されるため、損失処理が減り、赤字続きの決算も黒字転換が可能になる。当然、市場は「経営実態が見えなくなる」(証券ディーラー)と疑念を抱くが、米国は企業会計の基本原則を捻じ曲げてでも、金融危機を「強制終了」させるモードに入り始めた。

 今回の会計基準の変更では、一部で憶測されていた「時価会計の停止」はさすがに見送られた。しかし、売買目的で保有する債務担保証券(CDO)などの証券化商品について、買い手が付かずに投げ売りに追い込まれる場合、すなわち「秩序ある」取引が成立しないケースでは、時価会計を必ずしも適用する必要がなくなった。

エンロン元最高幹部2人に有罪評決 - 米国

風化するエンロンの教訓、レイCEOも他界〔AFPBB News

 金融商品の時価評価緩和をめぐり、FASBの承認投票はメンバーによる表決が賛成3、反対2で割れた。反対派のマーク・シーゲル委員は投票後、「今回の変更で損失計上が減ることを懸念している。バランスシートに対する投資家の信頼回復につながるとは思えない」と危機感をあらわにした。

 市場関係者の間でも、基準変更への懸念は強い。2001年に経営破綻したエネルギー卸大手エンロンの不正会計事件などを教訓に、米国はコツコツと企業会計制度の透明度を上げてきた。それを逆に濁らせてしまえば、将来は市場への参加を躊躇する投資家が増えてしまうと恐れるからだ。

上院委員長、FRB議長、ウォール街・・・審議会に「圧力」

 それなのに、FASBは時価会計基準の緩和を決めてしまった。このタイミングで基準を甘くし、まもなく発表ラッシュを迎える今年1―3月期決算への遡及適用まで認めた理由は、極めて明快といえよう。各方面からの圧力が、米会計基準を公正に定めるべきFASBの独立性を侵し、金融機関の健全性を強引に「数字」で証明しようとしたからだ。

 昨年9月のリーマン・ショック以降、時価会計の適用停止や見直しを求める機運が急速に盛り上がり始めた。金融機関が続々と経営難に陥り、「保有し続ければ発生しない損失の処理を強制され、資本不足に陥って破綻するのは、時価会計の制度的欠陥ではないのか」という、時価会計悪玉論が権勢を振るうようになる。

米金融救済策、民主・共和両党が基本合意

米上院「金融族」の首領、ドッド銀行委員長〔AFPBB News

 今年に入り、昨年10―12月期決算でも米銀の損失処理に歯止めが掛かっていない惨状が明らかになった。時価会計の「弾力的運用」を求める声が一段と強まり、2月初めには上院銀行委員会のドッド委員長(民主)が時価会計ルールの微調整は可能だとの見解を表明した。

 それにより、ウォール街の当事者が勢いを得る。下院金融サービス委員会の公聴会で、ゴールドマン・サックスのブランクファイン最高経営責任者(CEO)は「市場の需給関係により、(実態を)かなり下回る水準で(不良資産の)売却を強いられている」と嘆いてみせた。