3月中旬、まだ日中の気温がマイナス6度というロシアに行ってきた。「日本青年社」という日本の民族派団体(いわゆる「右翼団体」)が初めてロシアを訪問することになり、ロシア政府関係者との会合セッティングやスケジュール調整を私が引き受けることになったのだ。

 30年ほど前、私は東京・狸穴町のソ連大使館で文化担当を務めていた。その頃の記憶と言えば、「右翼」の宣伝バスが大使館に近付いてきては、「北方領土を返ーせーえーえ!」「イワンのバカは、帰ーれーえーえ!」と、耳をつんざくような叫び声で怒鳴っていたことである。

 それが今や、その団体の1つと一緒にロシアに行くことになった。団員の行動はとても紳士的であり、またロシア人に対して友好的な態度を取っていた。その様子は、30年前とはまさに隔世の感があった。

 「右翼」さえも原則論にこだわらず、「歩み寄り」で北方領土問題を解決すべきと思うようになったのか。もしもそうだとすればロシア側の対応にも影響を及ぼし、両国が妥協案を探りやすくなるかもしれない。

 日本青年社とロシアの政府関係者との会談の内容は、日本青年社がWebサイトで報告しているので、そちらを見てもらった方がいいだろう。印象的だったのは、訪問団の団員が「世界は劇的に変わっており、新生ロシアも変わっている」「我々とロシアは自由と民主主義の価値観を共有できる」と語っていたことだ。

 日本青年社も変わったのだろうが、ロシアは本当にそんなに変わったのだろうか。私もロシアを新しい目で見てみようと思い、訪問団の帰国を見届けてから、しばらくロシアに残った。

モスクワを歩いて感じたこと

 モスクワを歩いてみると、町のあちらこちらに工事の途中でほったらかしにされた高層ビルがある。その光景を見る限りは、ただならぬ雰囲気を感じさせる。食料品店に陳列されている商品はすっかり少なくなっており、物価は高くなっている。

 しかし経済危機の影響は、実際はそれほど深刻ではなさそうだ。物乞いやホームレスの数が急激に増えたというような兆候も見られない。

 ルーブルは今年の1月から暴落していたが、3月に底を打って次第に持ち直してきた。「ロシアはまだ大丈夫だ、危機を乗り越えられる」という見方が出てきたようだ。だが、楽観視は許されない。このまま景気の停滞が長引けば、何が起きるかは分からない。