米国発の金融危機が世界中に伝播し、日本でも派遣切りなど雇用情勢の悪化が伝えられているが、ロシアではどうだろうか。

 実はロシアでも、ご多分に漏れず、経済危機の諸相は2008年秋口から主として金融セクターの問題として現れ、2009年に入ってからは特に国民生活を脅かす全国的なものとなってきた。今回は、懸念されるロシア労働市場の動向を見てみたい。

 ロシアの著名な世論調査機関であるレヴァダセンターが定期的に行っている世論調査によると、国民にとっての最大の悩みは、以下のようだった(表1)。

出所:レヴァダセンターWebサイトより筆者作成。

 この調査によると、最大の懸念事項は相変わらず物価上昇であるが、国民生活に直結する2つの事項、すなわち「失業増加」が懸念事項全体の2位となり、「賃金、年金、福祉給付の未払」(同13位)とともに前年比で大きく伸びていることがお分かりになるだろう。それでは、その実態は、どのようなものであろうか。

 経済成長が、今年に入ってから記録的な下落ペースを記録した点については、既に本コラムの別の執筆者も述べていた。これほどの経済規模の縮小が観察されるところでは、一般的には不振企業は経営リストラを通じて失業を増加させることが予想される。

 確かに、(図1)に見る通り、失業者数は2008年5月の409万7000人を底として、一貫して増加しており、2009年1月には610万人まで増加した。この水準は2005年初以来ほぼ4年ぶりのものであり、今後の動向が大いに懸念されるところである。

 ただし、ロシアの労働市場の特質として、経営不振が必ずしも失業増加に直結するとは限らないという面があることにも注意が必要である。なぜなら、ロシアでは独特の雇用調整の形態として、賃金の支払い遅延(あるいは未払い)が存在するからだ。

 これは文字通り、雇用される側が勤務した分の賃金を当然受け取るべき時にきちんと支払われないことを意味する。しかし、この賃金未払いは企業経営者にとってはまことに都合のいい調整メカニズムなのである。