東京の島しょ地域11島を象徴する1島、大島で今、ユニークなプロジェクトが起こっている。その核となるのが、個性的な島民を訪問したり、島の当事者たちと共に未来を考えるワークショップを行う少人数向けツアー。注目すべきは、それが“消費型観光”と対極をなす、「サスティナブルな島おこし」となり得る点だ。果たしてツアーはどう島おこしにつながるのか。そして、なぜ持続的なのか。プロジェクトを運営する伊藤奨さんと神田遼さんに、その真意を聞いた。

伊豆大島ミライプロジェクト メンバー 伊藤奨さん(写真右)/幼稚園を大島で過ごした後、
高校卒業まで八丈島や小笠原の父島で暮らす。 都心での大学生活を経て、三宅島で起業。
その後、大島で株式会社「TIAM」を立ち上げ、東京諸島に 特化したウェブメディア「東京都離島区」をローンチ。現在、大島・三宅島・新島の3島を拠点に活動する。
神田遼さん(写真左)/2020年に地域おこし協力隊の一員として、都心から大島に移住。
その後伊藤さんとともに、シェアハウス兼ワークハウス、イベントスペースの「クエストハウス」を立ち上げ、 代表を務める。並行して大島の農産物直売所スタッフとして働く。

“20万人が1回”より“4万人が5回”来る方が豊か

 伊豆諸島の中で都心から一番近く、もっとも面積の広い「大島」。コロナ禍以前は年間約20万人に上るほどの来島者があった。そんな大島が抱える課題の一つが “消費型観光”の多さだ。都心からのアクセスがよく日帰りも可能なため、多くの来島者を高回転で回す観光スタイルになりやすい。神田さんは、こう語る。

「消費型観光であっても地元経済が潤えばいいのでは?とも思われるかもしれませんが、消費型では、なかなか住民と観光客の間に深い関係は生まれません。それだと受け入れる側も大変ですし、この先も人口減少が避けられない状況を踏まえると、より深いつながりを築いていくことが重要になります。20万人が1回だけ訪れるより、4万人が5回訪れた方がその後の広がりもあって、経済的にも互いの心の面でも豊かだろうと」

 そんな課題感を背景に立ち上げたのが、「伊豆大島ミライプロジェクト」だ。これは伊藤さんたちが「令和4年度島しょ地域のブランド化支援——東京宝島アクセラレーションプログラム」に応募して選定されたプロジェクトで、都の支援を受けながら島のブランド化に資する取り組みを進めている。同プロジェクトでは、島外の人が島と深く関わるためのモニターツアーを2023年2月に予定しており、その後はツアーを旅行事業として自走させることを見据える。

 それに先がけて2022年11月には、島外の有志が島内メンバーとともに2日間の合宿を行い、ツアーをより良いものにするためのワークショップを行った。合宿では、実際に島のキーパーソンやスポットを巡った上で、ツアーのコンセプトや具体的なコンテンツ内容について意欲的に話し合われた。

 ツアーの目玉の一つが、ユニークな島民を訪れ、話を聞いたりワークしたりするプログラムだ。例えばどんな島民がいるのか、伊藤さんに教えて頂いた。
 

「例えば、島の南東にある波浮(はぶ)地区でゲストハウスを営む大島出身者の吉本さん。一旦都心に出てファッション関係の仕事に就いていましたが、一念発起でUターン帰郷。そこから、生まれ育った波浮地区の空き家を再生し、自転車とアートがテーマのゲストハウス『青とサイダー』を開きました。

 さらには隣の酒屋も引き継ぎ、島の内外の人が集える角打ちスペースも設けました。地域内からの信頼がありつつ、都内の方々と繋がるハブとなる吉本さんの影響もあり、今や波浮は、新しい取り組みが各所に生まれ、若者や女性も集まる稀有なスポットになっています」

波浮(はぶ)港(夜明け)

人やものごとを結びつける“仕切り役”を仕事化する

 そしてツアーには、もう一つ目玉企画がある。それが、島の課題を知り、どう解決していくかを考える“島の未来を語るワークショップ”だ。果たして参加者は、どんなモチベーションでワークショップに参加するのか。

ワークショップの発表会の様子
大手企業勤務、個人事業主、学生など様々な立場の方が参加されている

「例えば自分が提案した取り組みやそのエッセンスが実際に採り入れられたら、純粋に面白いですし、島から必要とされている感覚や、島に居場所がある感覚を得ていただけるのではないでしょうか。そのためには、ワークショップから生まれたアウトプットを、きちんとポートフォリオとして積み重ねながら開示していくことも大切になります」(伊藤さん)

 ちなみにこうしたツアーを回していくには、参加者と島民をつないでツアーを実行する仕切り役、いわゆる「ファシリテーター」が必要だ。島側との調整を行うだけに、まずは島に住む人で、且つ人やものごとのハブとなれるような人が適役になる。そうしたファシリテーターの重要性に着目し、そこにサスティナブルな仕組みを採り入れようとしている点が、同プロジェクトの面白いところだ。

「こうした取り組みは、誰かがボランティアでファシリテーション的な動きをしてくれることで、成立してきた部分が大きいです。しかしボランティアだけでは限界があり、なかなか持続はできません。だからこそ、例えばツアー収入からファシリテーション料をお支払いするなどして、ファシリテーターを仕事と捉える文化が重要だと考えています。

 もちろん、お話を伺う島民の方々にも、何らかのインセンティブをお渡しする。そうして一部の人の善意の協力や頑張り(負担)だけで支える形を解消してこそ、持続的なものになると思います」(伊藤さん)

 では、当プロジェクトで何より気になるポイントと言える、「こうしたツアーを開催することで、どんな形で島おこしにつながるのか」に関しては、どうだろうか。それに対する伊藤さんと神田さんの答えは、とても腹落ちするものだった。

ツアーは島と深くつながるための“入り口”にすぎない

「当然、参加者の方々は料金を払ってツアーに参加するので、同じ人に何回もツアーに参加して頂くのは、あまり現実的ではありません。そもそも、ツアーだけで島が盛り上がるとは考えていません。でも、私はそれでいいと思っています。一度ツアーに参加して島とのつながりができたら、あとは個人で自由に再訪したり、周りの人に島の魅力を紹介したり、あるいは島のモノやコトにお金を使うなどの形で、島とより深くつながっていただければいいのかなと。とは言えせっかくツアーに参加して島との関係性を深めてくださった方々なので、なんらかのカタチでコミュニティを創り関係性を維持・深化できる仕組みも検討しています。

 ツアーはあくまでも島とつながってもらうための“入り口”であり、島の深い部分へと島外の方々を送り込む“ポンプ”と捉えています」(伊藤さん)

 さらにその先には、こんな未来も見据えていると神田さんは言う。

「ツアーを入り口に、島と島外の人の関係性が深まれば、その後、もしかしたら企業の研修やキックオフミーティングなどに島を利用していただけるかもしれないし、修学旅行やスポーツ合宿などの誘致にも結びつくかもしれません。もちろん、移住する人も出てくるでしょう。そこまで見据えての、『ミライプロジェクト』なんです」

 そして、この仕組みが注目に値するのが、“横展開”も可能な点だ。もし同プロジェクトが大島で自走できれば、同じ仕組みを他の離島でも展開できるだろう。そうして各島が有機的な少人数ツアーを通じ、いわゆる関係人口や交流人口を持続的に増やし続ける世界が、近い将来訪れるかもしれない。そんな未来に向け、神田さんはこう語る。

「まずはツアーを通じて『また来たい』『今後も島と関わっていきたい』と感じて頂くことが何より重要です。その先にある島の未来を楽しくイメージしながら、今後も試行錯誤していきたいです」

 伊豆諸島の中でも大きく、十分な生活インフラも整う大島。そんな地で発案された“ちょっと風変わりなプロジェクト”が今後どんな成果を生み、他島にどう影響を与えるかが、何とも興味深い。




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