経営に関わる5つの領域(ファイナンス、マネジメント、アカウンティング、マーケティング、英語科目)を必修科目で学べるなど、幅広いカリキュラムでMBA取得を目指す明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科(通称MBS /明治大学ビジネススクール)。
経営環境の変化が激しいこの時代、MBSではイノベーションを起こすメカニズムや、企業が変わる方法論を学ぶこともできる。
現在、本田技研工業(以下、ホンダ)の経営企画統括部において、企業への出資やM&Aを行う佐藤功さんも、MBSの修了生。野田稔専任教授のゼミに入り、イノベーションに関する修士論文を執筆。企業がどう変わっていくか、その方法論を追求した。さらに彼は、同じくMBSに通った1人からスカウトを受け、現在の会社に転職したという。
異動により、
「経営目線」で物事を見る必要性を感じて入学
佐藤さんがMBSに通った時期は、2017年4月からの2年間。入学当時、彼は前職の大手食品会社に勤めていた。これまで営業や商品開発を担当してきたが、その後、会社全体を見るコーポレート部門に配属となり、ある業務を任された。それがMBS入学のきっかけだった。
「その食品会社は、大きな2社が合併した経緯があります。合併から時間が経ったものの、過去の2社を引きずってしまい、組織として一体になれていない課題がありました。そこで、社の組織再編に関わることとなったのです」
この業務は、経営層への提案が多くなる。佐藤さんは「自社の商品やマーケティングの知識はありましたが、経営目線で物事を見て、組織のあり方を提案する部分は弱いと感じていました」と話す。
「当時の上司からも、提案自体は悪くないが、体系的に経営を学べばさらに良くなると。そんな課題を抱えていると、ある執行役員に『MBSで学んでみたら?』と紹介していただいたのです」
MBSの立地の良さも入学を後押しした。職場から30分ほどで行けたのはメリットだったという。また、佐藤さんは子どもが3人おり、当時はみな小学生以下。日曜は必ず家族との時間を設けた。「論文の終盤は日曜も来ましたが、基本はそのスタイルで通い続けられました」と話す。
野田稔ゼミで突き詰めた「イノベーションのメカニズム」
2年間の学びを振り返り、特に印象的だったのは、野田稔専任教授のゼミで書き上げた修士論文だ。テーマは「イノベーション」。企業派遣で来ているからこそ、 自社に貢献できる論文を書こうとテーマに据えた。
そしてこの論文を書きながら、企業がイノベーションを起こす上で何が重要か、自分なりに答えが見えてきたという。
「イノベーションを起こすために大切なのは、関わる自分自身もイノベーションしなければならないということです。自分が変わり、新しい何かを生もうとする。その結果、会社のイノベーションが自分ごとになります。大企業はイノベーションを起こしづらいと言われますが、大きな組織は誰かしらの反対や抵抗勢力があります。だからこそ、まずは関わる人自身が変わらなければ、イノベーションが起きにくいのだと考えるようになりました」
多くの経営者は、頭の中では「変わった方がいい」と思っている。だが、いざ変えようとすると、各論の中で反対意見や「いまやらなくても良いのでは」といった声が出てくる。大企業になるほどそれは起きやすい。関わる組織も人も増える分、反対意見の出る機会も増すからだ。
「そのとき、自分自身が“会社を変えたい”という意志をどこまで強く持てるか。もしその人自身が変わっていれば、反対意見が出てきたとしても、この考えを通そうという気持ちは強くなると思います」
こういった学びの中で、次第に佐藤さん自身も、チャレンジや変化を恐れない姿勢を持つようになったという。
当時、佐藤さんはMBSのほか、起業・スタートアップ支援のプログラム「ニッポンイノベーター塾」にも参加していた。3人ほどでアプリの新規事業のアイデアを出し、投資家の支援も受けていたという。
その後、この新規事業は他の人に譲ったが、MBSの修士論文と起業プログラムを並行する中で、自分自身も「変わることの重要性」を感じていった。そして、変わるために何をしなければいけないか突き詰めていった。
「自分が変わりたいと思ったら、それを心の中で思うのではなく、1つでも行動に移すことが大切だと感じました。環境を変えるのは分かりやすい例ですし、MBSで学ぶのもその1つでしょう。意志だけで変化を起こすのは難しいので、まずは小さなところから行動に移してみる。その中で試行錯誤していく方が良いと思います」
悩んだホンダへの転職。
MBSに通わせてくれた会社と長く相談
そんな折、まさに佐藤さんが“変わる”機会が訪れる。MBSの野田ゼミで同じく学ぶ方からホンダに来ないかと話を受けたのだ。もちろん、MBSには企業派遣で入学した経緯もあり、会社の好意に背くこともできない。一方、ここでの学びを通して、先述のように「変わることの重要性」を強く感じるようになっていた。
加えて、いまこのタイミングでホンダという企業に入ることにも大きな意義を感じたという。
「日本の未来を考える上で、日本経済が良くなることは不可欠です。自動車産業は日本経済の根幹ですし、この産業が良くならないと経済は上昇しないでしょう。ひるがえって、電動化をはじめ、自動車産業は大きな転換期を迎えています。日本のメーカーも厳しい状況にいる。ただ、ホンダの持つ技術力は世界的にもトップクラスですし、それをもっとうまく見せ、活用できたらと思いました。ホンダが盛り上がり、いずれ日本が変わればと思ったのです」
また、当時勤めていた食品会社は国内中心の展開だったが、佐藤さんはグローバルのビジネスや海外との接点を作りたいという思いもあった。
「前職の会社には本当に申し訳ないと思いましたし、MBSを紹介いただいた執行役員にもかなりの時間相談しました。最終的には自分の意見を尊重していただき、転職することに。お世話になった恩を返そうと、入念に引き継ぎを行いました」
前職の会社への恩義もありつつ、最終的には新しい環境に身を置く、まさに「自分を変える」という選択をしたのだった。
ちなみに、佐藤さんの同期で、やはりMBSのつながりから転職した人もいるようだ。学びの場であり、かつキャリアや人生に大きな影響を与える人脈ができるのも見逃せないだろう。
出資やM&Aに携わる現在も、MBSの学びが生きている
佐藤さんは現在、ホンダでスタートアップへの出資やM&Aを担当している。EV(電気自動車)に移行する中で、新しい技術を持つ企業への出資を通じて、未来の自動車に必要な要素を確保する重要な役割だ。
「業務内容は前職から大きく変わりましたが、MBSでの学びは役に立っています。ホンダは技術力があり、これまでは自前主義で技術開発を行ってきました。EVでもそれは大切ですが、一方で開発の時間軸を考えると、スピード感を出すために外から技術を取り入れることも必要です。自前で開発する技術はどれで、外から調達する技術はどれなのか。どんな形なら市場価値を出せるのか。その判断に生きています」
佐藤さんいわく、ホンダという会社も大きく変わるタイミングであり、だからこそ自身が学んだイノベーションのメカニズムが生きているという。
現在はホンダ社内で出資を担当しているが、いずれは子会社などの「専門部隊を持って出資できたら」と目標を語る。そんな佐藤さんは、MBSの入学を考える人にこんなメッセージを送る。
「やはり行動してみるのが大切だと思います。入学に際していろいろな不安があると思いますが、やってみなければ答えは分かりません。仮に入学して不安が現実になったなら、そこで対策を考えれば良いと思います。自分のストレッチ幅を柔軟に調整しながら、まずはチャレンジしてみるのが良いのではないでしょうか」
いろいろな不安はよぎるが、その結果、動かなければ変化は生まれない。まずは小さな行動をして、変化を起こしてみる。これこそが、佐藤さんがMBSで学んだイノベーションの真理であり、自身の生き方にも通じる哲学だ。
<取材後記>
何度も佐藤さんが口にした「イノベーションを起こすには自分自身が変わらなければならない」「変わるためにはまず行動する」といったフレーズは、すべての人に当てはまるはず。また、MBSが転職につながる「出会い」を生むことも見逃せない事実だ。
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