2018年に経営系大学・大学院国際認証機関EFMDのEPAS認証を日本で初めて獲得した明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科(通称MBS)。
ファミリービジネスやスタートアップビジネスを支える人材、グローバルなジェネラルマネージャーとして活躍する人材の養成を目指し、ファイナンス・アカウンティング・マネジメント・マーケティング・不動産・ビジネスローの6つの専門領域にまたがってカリキュラムを提供している。
使命のために
老舗の和菓子会社で20年余のキャリアを持つ淑子さんも、修了生のひとり。
「会社では秘書、海外部門の日本支社、経営企画、商品開発など、様々な部署で立ち上げ業務を担ってきました。今はシステム推進室で働いています」
人事や生産・販売、情報共有などにかかわる社内システムの管理やメンテナンスをしながら、業務課題に対してシステムで解決できることを提案するという部署だ。
「会社ではいろいろとやらせてもらいましたが、私は組織の部品かな、私だけができることはないんじゃないかなとも感じていました」という淑子さん。
そんなときに父親に言われた言葉が、淑子さんがその後の人生を考え直すきっかけになった。
「父は下町で、3代続く金属加工専門商社のオーナー社長をしています。あるとき父に家業を継いでくれないかと言われた。それを聞いて、私を必要としてくれる場所にエネルギーを全力投球してもいいのではないかって思った。家業を継ぐことが私の使命になったんです」
家業を継ぐために何が必要かと考え、知識やネットワークを身につけたいと思った淑子さんは、本格的な学びに踏み出すことを決める。
「個人として成長することで今の会社にも貢献できると思ったし、ちょうどそのころ持病が改善して、前向きに何か始めよう!と思ったこともあります」
故・青井教授のもとで学びたい
「修了後も、80歳になっても関係が続く大学院に行きたい」と考えた淑子さんは、「明治は「経営系専門職大学院認証評価」にて適合の認定を受け、研究科の教育研究が第三者から見ても評価されている点に魅力を感じた。また、明治大学のブランド力にも、事業の継続性の観点から信頼でき、キャンパスも御茶ノ水で、充実した図書館などの大学施設が使える」とMBSを選んだ。
「夜間通えて仕事と両立できることも魅力だった。でも何よりも大きかったのは、やりたいことの授業科目が用意されていたこと。ファミリービジネス研究の青井倫一・元研究科長からご指導いただきたかった」と話す淑子さん。
「実際に入学後、『交渉論』や『戦略論』をはじめ、これを教えられるのは青井先生しかいないと思える授業をたくさん受けた。多くを学び、今でも反芻していることばかりです」と淑子さんはいう。
「『交渉論』は様々なケースの下で、ドロドロして人間不信になってしまうような交渉をする授業。そこで先生は交渉後に、自分で大きな価値を取るのじゃなくて、相手が勝ったと思えるような勝ち方をしないと、関係性って壊れちゃうよねとおっしゃった。つまり実際のビジネスにおいては、自分も勝ちながら、相手も勝ったと思わせることが重要ということ。この考え方は今でも生きています」
一方、『戦略論』の授業は、戦国時代の武将の話から始まって、歴史的背景から戦略とは何かを紐解いていく授業。日本史もまだまだ勉強しなければと淑子さんはたくさん課題図書を読んだという。
「もっといろいろと教わりたかったですが、青井先生は在任中にご病気で亡くなってしまった。今も生きていらっしゃればなと思います」
落合教授のもとで論文を書き、悩みを乗り越える
淑子さんは落合稔・前研究科長にも師事した。
「落合先生は管理会計が専門で、数字の視点で経営を見る。青井先生とはタイプが違い、冷静に分析するタイプの実務家の先生。私も落合ゼミでいろいろと学びました」と振り返る。
淑子さんは、長く続くブランドを次世代に承継するためには何が必要かという視点で、『老舗和菓子屋の商品と事業の承継』について論文を執筆した。
「世の中に美味しいものはあふれている。危機管理の視点から、消費者が商品を認識するブランド価値についても調査しました」
家業を継ぐにあたって何が必要かという視点で学び始めた淑子さんだが、「家業の金属加工産業が先細っていく中で、そもそも本当に継いでいいのかという悩みもありました」という。
「でも、どうすればいいかわからない、と立ち止まるのではなく、知識を身につけて前に進もうと思った。MBSには同じような悩みを持った仲間もたくさんいました」
「悩みを乗り越えて家業承継に踏み出そうと思えたのは、知識と仲間のおかげでした。同期やゼミ生と、今考えていることは本当にそうなのと揺さぶるような議論をしたり、資料や情報を共有したりして、助け合った。落合先生のゼミのOB/OGたちから学ぶこともすごく多かった」という。
今感じている変化
修了したのち、すぐに家業を継ぐことはせず、いったん会社に戻ることを決めた淑子さん。事業承継の体制が整備されるのを待って、承継のための準備をするという。
「早く継承したいという気持ちはありますが、MBSで社会の状況も学んだ。今は自分の成長を今お世話になっている会社に還元しながら、タイミングを見ています」という。
会社でも、仕事の仕方が変わったことを感じている淑子さん。その業務を通じて本当に何をやりたいのか、現状分析をしながら業務にのぞむようになったという。
「業務がスッキリしたし、仕事のスピードも上がった。何より、青井先生の言っていた『相手に勝たせてあげる仕事』をできるようになった」
「システム業務の『相手』は社内のユーザー。ユーザー寄りの考え方をすることが大事。私は業務を標準化し、情報を発信することでユーザーのITに対する知識を上げていこうとしています。誰かに聞かなきゃわからない1対1の業務を減らしたんです」
「その中で、ユーザーとの接し方が変わった。あの人に言えば間違いないといわれるようになった。おかげで社内の電話が多く来るようになってしまいましたけど」と笑う淑子さん。自らを代替性のある会社の部品と思っていた淑子さんはもういない。
MBSとともにこれから目指すもの
「今後目指すのは、家業を承継し、100年企業を作ることです。今の会社で老舗事業が受け継がれていくのを見ていて、人はまわりが育てるものだと思った。自分の成長を家業にも社会にも還元しながら、お客様とともに歳を取っていける会社を作りたい」
入学前の悩みは吹っ切れた。
「行き詰まったときに、問題を現状で解決しようとするんじゃなくて、いったん実務から離れてみて、知識・学問から解決するというアプローチをとるのもひとつだと思う」と話す淑子さん。
「ここは、MBSに行けば何かあると思える場所。課題もいっぱい出るけど、仲間が助けてくれる。メンター的な先生たちもアドバイスをくれる。最終的にはここで結論が出る」
今も図書館に通い、科目履修生として戻ってきている淑子さん。「いつもMBSがそばにいるという感じがします」という。
<取材後記>
「2年間すごい勢いで走ってきたら、ものの見方が変わった」という淑子さんは、本を読むなどの大事なことにとことん集中するために、「余計なことをしなくなった」という。
自分の大事にすることが何かを分かること。学びに集中することは、人生をシンプルにするという副次的効果がある。それほどに学び続けることは大きなことなのだという印象を持った。
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