2004年に設置され、日本で初めて経営系大学・大学院の国際認証機関EFMDからEPAS認証(現EFMD Accredited MBA)を獲得するなど、国際水準のMBAカリキュラムを持つ明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科(通称MBS /明治大学ビジネススクール)。

仲野真人
明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科2019年入学、2021年修了。野村證券㈱・野村アグリプランニング&アドバイザリー㈱を経て、2019年4月に㈱食農夢創を設立し代表取締役に就任。起業後は農林水産省の6次産業化エグゼクティブプランナーを拝命するとともに、農業法人の経営支援やビジネスマッチング、食農塾の企画・運営、セミナー講師等、全国各地の生産者を支援するために奔走している。

 MBSでは、マネジメント、マーケティング、ファイナンス・リアルエステート、ビジネスロー、アカウンティングという5つの学問分野に加え、スタートアップビジネスとファミリービジネスという分野を横断した2つの履修モデル「クラスター(科目群)」を設定。たとえばスタートアップの起業などを目指す人などは、スタートアップビジネスのクラスターで5領域をまたいで履修できる仕組みとなっている。

 2021年3月にMBSを修了した仲野真人氏は、スタートアップ企業の「食農夢創」を立ち上げ、代表取締役を務める。同社は、農林漁業の経営者や法人への支援、コンサルティングなどを行う。生産(1次)をサポートし、加工(2次)、販売(3次)までつなげて、農林漁業の「6次産業化(1次×2次×3次)」を後押ししているという。

講演の様子

2代目経営者のサポートのため、学問の裏付けが必要だった

 実は、仲野氏が起業を決めたのは、2019年にMBS入学を決めた直後のことだった。もともと彼は、野村證券に就職し証券営業を担当。その後、子会社である野村アグリプランニング&アドバイザリーに7年ほど出向し、農業のコンサルティングを行っていた。MBSへの入学を決めたのも、この業務でのステップアップを目指すためだったという。

「出向前は証券営業がメインだったので、経営支援やコンサルティングを学問的に知る機会がありませんでした。特に農林漁業は、創業した親が規模を急拡大して二代目に引き継ぐケースが多かった。個人事業で始めた農家が、中小企業になって代替わりするような形です。ただ、引き継いだ2代目経営者は、小さい頃から生産や収穫は学んできたものの、経営の知識は蓄えておらず重圧を抱えていた。販路決めや原価管理、法人としての資本政策、こういった経営全般を農業従事者がまかなうのは簡単ではない。そこで私がMBAを取得し、学問的な知識を身につけた上で経営者のパートナーになれればと思ったのです」

現地視察の様子

 仲野氏は結婚しており、まだ幼稚園に通う長女もいた。その中で2年間、数百万円の自己投資をして良いか迷ったという。ただし、一次産業に長く関わりたい気持ちは強く、「妻も理解してくれた」とのこと。平日の通学にも不安はあったが、MBSは18時50分からの授業開始ということで間に合うと考えた。

 もうひとつ、MBSを選んだ決め手は「明治大学が農学部を持っていること、そして、農業関連の事業で成功しているMBS修了生が多かったこと」だという。多角的な農業ビジネスを行う和郷園の代表理事・木内博一氏や、岐阜県恵那市で地元農家と連携し、栗を使った食品を販売する恵那川上屋の代表取締役・鎌田真悟氏は、MBSの修了生だった。この“人脈”という要素は、のちに大きなメリットを与える。

大きかった人脈。同朋から仕事を依頼されたことも

 そうして入学を決めたが、なんとその矢先に本社への異動辞令がきたという。異動先は一次産業とは遠い分野であり、ちょうど課長に昇進したばかりだった。新しい環境、しかも課長職につきながらビジネススクールに通うのは厳しいと感じたという。「入学金も払っていて困りました(笑)」と仲野氏。思わぬ人生の岐路に立たされた。

「ただ、そもそもの入学目的は、農林漁業の経営者をサポートすること。この分野に携わり続けたいからこそMBSを受けました。であれば、野村證券は退社して、MBSに通いながら起業しようと思ったのです。逆にMBSの2年間を足固めの時期と捉えて、しっかり学ぼうと。入学が決まっていなければ、ここまで思い切った決断はできなかったかもしれません(笑)」

 入学時には「首席を取ろう」と自身に命題を課したという。首席そのものが欲しいのではなく、「2年間、そのくらい本気でやらなければ起業は成功しないと思った」と説明する。実際、2年後には首席で卒業。そして自身の会社も、企業から2年経って、順調に業務を拡大しているという。
では、そんな状況下で学んだMBSは、仲野氏のビジネスにどんなプラスの影響を与えたのだろうか。

「いろいろなプラスがありますが、やはり大きかったのは人脈やネットワークですよね。MBSに通う人の多くはマネジメント層であり、会社での決済権を持っている。ですので、MBSのつながりを機に、仕事を依頼されたことも多数ありました」

MBS 運営委員会16期メンバー集合写真

 OB・OGとのつながりも大きい。明治は国内のMBA機関でも歴史が長く、さらに「各業界で成功している修了生が多い」という。また、グローバル・ビジネス研究科の修了生が運営する同窓会組織「MBSネットワーク」も規模が大きく、仲野氏の関わる農や食の産業でもさまざまな人が活躍しているという。

「生産から加工、販売まで、各領域に携わる人は、それぞれつながりたいと思っています。ただ、なかなか接点を作りにくい。そこをつなぐのが自分の役目であり、だからこそネットワークがありがたかったですね」

 ネットワークだけでなく、2年間受けた講義から学ぶことも多かった。

「5つの領域すべてに専門的な授業があるので、自分の知りたい内容を深く学べたのがよかったですね。たとえば私は、経営者のサポートという意味で、HRM(ヒューマンリソースマネジメント)に関心がありました。MBSでは、野田稔先生のHRMの授業を受けられますし、ディベートでも具体的にアドバイスをいただきました」

 アカウンティング授業でも学ぶことは多かったという。仲野氏は証券会社出身であり、この分野に一定の知識はあった。決算書を見るのも慣れていたという。ただし授業では、「実際に日産自動車などの決算書を見ながら、当時、カルロス・ゴーンがどんな政策をとったのか、実例をベースに追っていきました」とのこと。決算書の数字と経営者の戦略を両面で見ていく、一歩先の知識を深掘りできたという。

変化の激しい時期。その最前線を学べるMBAに意味がある

 こういったMBSでの学びは、現在、一次産業が置かれている厳しさや改革の必要性を現場に伝える上でも活きているという。

「日本の一次産業は、このままでは衰退する危険があります。その実情をきちんと伝え、現場の方に理解してもらわなければ、状況を変える動きは生まれません。そこで、実情を伝える際には、地方の農業人口が減少しているデータとともに、感情的な問いかけも併せています。自分の子どもが親になったとき、この農村風景が残っているのか想像してもらうなど。こういった伝え方ひとつをとっても、外部環境分析やマネジメントマーケティングの裏付けがあるからこそ出来ると思います」

 後半の1年間はコロナ禍に見舞われ、オンラインの授業が中心に。しかし、仲野氏は「むしろこの時期に学べてよかった」という。

「コロナで消費者の動向が大転換する中で、マーケティングの専門家にその最前線を教えていただいたのはむしろ幸運でした。外食産業が厳しくなる一方でECの食品販売が伸びるなど、食の業界は激変しています。農林漁業の方たちは、今まで通りの販路を続けるべきか、ECなどに舵を切れば良いか迷っている。MBSで最前線を網羅し、それをもとに現場の経営者に助言できるのは大きいですね」

 たとえばコロナ禍でECの販売比率を高めるとして、どれだけ比率を変えるべきなのか。コロナが収束した場合のことも考えて、バランスを取らなければならない。未来の予測が難しい状況だからこそ、一つ一つの経営判断に深い知識が求められる。

 また、今までは現場に赴くことが営業における”価値“だったが、コロナ禍ではそれが難しくなった。かといってオンライン商談では関係性を築きにくい。特に日本の農作物を海外に営業する場合、異国の人とオンラインでどうコミュニケーションをとるべきか、方法論が求められる。仲野氏は「たとえば先に商品を送って、オンラインで一緒に試食するなど、営業の工夫が必要です」という。これらを考える上で、アカデミックな知識が役立つという。

 経営戦略から営業まで、すべてにおいて新しいノウハウが求められている。そんな時期だからこそ、「今このタイミングで最先端の潮流を学べたことに意味があった」と振り返る。退職・起業とともに通ったMBSでの2年間は、これからの時代に必要な学びをもたらしたのかもしれない。

<取材後記>

 MBSで培った学問の知識と人脈。仲野氏のように、スタートアップの経営者や起業から間もないビジネスパーソンにとって、重要な意味を持つだろう。特に産業のあり方が激変し、経営者にとって高度かつ迅速な判断が求められる今は、学びの価値が増していると感じた。

 

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