明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科(通称MBS)は、ファミリービジネスの発展やスタートアップビジネスを通じて、企業や地域社会の発展に寄与できるような、総合マネジメント力を備えたビジネス・プロフェッショナル人材を育成することを目的としている。
MBSの特徴は170科目に及ぶ幅広いカリキュラム。在学生はそれぞれの指向や目的に応じ、ファイナンス、アカウンティング、マネジメント、マーケティング、不動産、ビジネス・ロー(2018年度新設)の6領域を領域横断的に履修することができる。
MBSは、2018年に経営系大学・大学院の国際認証機関EFMDからEPAS認証を日本で初めて獲得し、研究科の適切な管理・運営などが評価された。
MBS在学中に日産自動車株式会社から株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)へ転職した左向貴代さんも、カリキュラムの幅広さに魅力を感じて入学を決めた修了生のひとり。
入学前は情報サービスと連携した自動車作りに携わっていたが、製造業としてサービスを作る難しさを感じ、「モビリティに関するサービスを事業化できるスキルが欲しいと思っていた」という。
そんなときに、MBSのカリキュラムを見て、「ここでは、たとえばモビリティを取り巻く環境について学びたいと思ったら都市計画論が学べるし、同時に運輸に関する流通・ロジスティクス論も学べる」と、入学を決意した。また、「もともと短大の秘書科を出ているが、若いころ勉強をしていなかったという感覚があり、実務を通じて覚えてきたことを体系化してきちんと勉強したい」という気持ちも強かった。
「そうして入学したら、世の中にはすでにスキルやノウハウを持った人たちがいることがわかって、自力で身に付けるより、ネットワークを使うほうが早いと気づいたんですけど」と笑う。
学びながら、自分の強みを知る
会社の理解は得ていたものの、神奈川にあるオフィスからの通学は容易ではなかった。それでも左向さんは、「大学院で得られるものを取りこぼしたくない」と、授業がある週4日程度、休まずMBSに通学した。
「流通やロジスティクス論の授業で学んだフレームワークなど、直接仕事に生きていることもあれば、考え方や気づきという形で体得したものもある」
その中でも特に、自身の軸となる分野と、プロフェッショナルとしての強みを再認識したことは大きかった。
左向さんの修了論文のテーマは、「プラットフォームビジネスにおけるプレイヤー間の最適機能分担に関する一考察」。自動車メーカーではサービス作りが難しいという実務での問題意識が出発点となり、自動車メーカーとサービス会社の業務分担について論じた。
このテーマが自分の軸であるという気持ちを改めて強くしたという左向さん。入学当初は転職する予定ではなかったが、MBSの教授に「新しい環境を楽しめるのならばチャレンジしてみたら」とアドバイスされたことをきっかけに、モビリティ分野を製造業の側で支えるメーカーから、サービス・プラットフォームの側から支えるIT・サービス企業へ、在学中に転職を決めた。
「現在はDeNAでオートモーティブ事業を担当しています。モビリティサービスを作るための戦略作りから、自動車会社との橋渡し、自動運転の実証実験まで、業務は多岐に及びます」
「転職したてはつらかった」と振り返る左向さん。カルチャーも言語も違う業界への転職は戸惑うことも多かった。それでも新しい環境に適応していけたのは、「MBSに通いながら自分の強みを確認できたため」という。
「自分の強みは問題解決能力。前へ出て案件を作るというより、トラブルシューティングを得意とする『守り』の型。普段はあまり目立たないが、製造とサービスの間でトラブルがあったときに資料作成やコミュニケーションを通じてフォローしているうちに、『リベロみたいだね』と認められるようになった」という。
在学中の課外活動で、新入生の履修相談会や修了パーティーといった行事を運営し、「トラブルもある中でリアルな課題解決能力を養えた」ことも影響しているのだという。
自分の軸に向き合う
「やはり私の軸はモビリティにかかわる分野」
左向さんは、今では博士課程で「モビリティサービスの領域におけるプラットフォームビジネス」の研究をしている。
これからの高齢化社会、モビリティ分野での課題は多い。身近なところでは、車が必要不可欠な郊外に住んでいる高齢者が、運転ができなくなっても生活の質を担保するには何が必要か、という問題がある。
左向さんにも、動きたいときに自由に動ける世の中を実現したい、という思いがある。自動車のIT化の風潮の中で、プラットフォームビジネスの知見を掛け合わせ、「研究者として、会社員として、モビリティの課題に取り組んでいきたいと思っている」という。
「いくつになっても勉強は始められる」と左向さん。
「私は若いころには勉強をしていなかったというコンプレックスを持っていたが、そんなコンプレックスがあっても受け入れてもらえるし、認めてもらえる。過去にとらわれなくてもいい」
しかし、単に大学院に来ることはゴールではない。
「まず、目的意識をきちんと持つことが大事。目的もなく投資をするのはもったいない。私も、仕事に追われる中で、一回立ち止まって、何がしたいかを考え、自分の言葉で自分の意志を話すための整理をした。自分のやりたいことに対して大学院のプログラムがフィットするのならば、大学院に通うというのは選択肢の一つにあってよい」と締めくくった。
<取材後記>
転職して現在は管理職として働いている左向さん。彼女のマネジメントのスタイルは、チームをぐいぐい引っ張っていくトップダウン型のリーダーシップではなく、「サーバント・リーダーシップ」だという。
「基本的には裏方に徹して、チームのメンバーが仕事をしやすい環境づくりをする。役割にコミットするのではなく、チーム全体の成果にコミットすればいい。野球部のマネージャー的な感覚でマネジメントをしたいと思っている」
「たとえば、働く女性は男性とバリバリ戦っていく、と考える人もいる。でも私は、そこは戦うところじゃないなと思った」と左向さんは語る。「それぞれが得意なことを、得意な方法でやればいい」
会社の形態や働き方が多様化していく中で、マネジメントのスタイルも多様化していく。分野や男性・女性の違いにとらわれず、自分の強みを発揮できる方法を見つけていくことが重要なのだと感じた。
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