同年10月28日、第19回中国共産党大会で自らの権力を強化した習近平主席は、「忠臣」である李希(り・き)遼寧省党委書記(当時)を、広東省党委書記に送り込んだ。「広東省利権」を習近平グループが奪った瞬間だった。
翌2018年3月、習近平主席は自らの政権の「2期目5年」を始めるにあたって、汪洋副首相を政協主席に「指名」した。政協は、前述のように中国唯一の公的諮問機関だが、政府に対する強制力はない。いわば「権威はあるが権力はない」機関である。
ただ、国家主席、首相、全国人民代表大会常務委員長(国会議長)に次ぐ権威を持つので、共産党の序列では4位に来る。ともあれ、汪洋氏と許CEOは、政協主席と常務委員という立場で、再び二人三脚の日々が始まった。
乾坤一擲のEV進出が裏目に
政権からの「圧力」が強まる中、2019年1月、許CEOは「勝負」に出た。政権が「主力産業」に据えようとしているNEV(新エネルギー車)に進出したのである。8100億円も投資し、「本気度」を見せることで、生き残りを賭けたのだ。
だがこれが、昨年年初からのコロナ禍で、裏目に出た。コロナ禍で中国人が不動産を買わなくなったことで、不動産企業はどこも資金繰りが悪化していったが、自動車産業に進出してしまった恒大は、とりわけ厳しくなったのだ。
そこに政権が、追い打ちをかけた。昨年8月に「3つのレッドライン」(負債の対資産比率は70%以下、純負債の対資本比率は100%以下、手元資金の対短期負債比率は100%以上という「3つのレッドライン」に従って不動産企業を4分類し、それぞれの債務規模を制限する政策)を施行。今年1月には住宅ローン規制などの総量規制を施行。6月には大都市の不動産価格の上限と地方都市の下限を定める規制を施行。この政権が繰り出した「3連発」で、恒大は完全にノックアウト状態となった。