麻生太郎内閣の支持率低下に伴い、民主党政権の実現可能性が一段と高まっている。だが、政権交代しても、党代表の小沢一郎が首相の座に就くとは限らない。健康不安を抱えたまま、激務に耐えられるのか。いや、そもそも小沢は首相の椅子など望まず、「院政」を敷いて実質的に権力を掌握しよう・・・。そう考えているのではないか。(敬称略)
「小沢さんが衆院予算委員会で首相として答弁する姿なんて想像できない」(民主党中堅)。実は、民主党内にこうした声は少なくない。
仮に小沢内閣が誕生すれば、小沢は「野党・自民党」の徹底攻撃にさらされる。もともと論戦は苦手だし、説明も下手。だから、国会の党首討論にも積極的ではない。党代表なのに国会で代表質問に立たず、本会議の欠席もしばしば。「国会軽視」と批判されたことは、1度や2度ではない。
そんな小沢が1日7時間も予算委の席に座り、野党のしつこい質問にきちんと答弁できるのか。体力的に、あるいは精神的に耐えられるのか。「小沢首相の答弁姿を想像できない」という指摘には、筆者もうなずける。
小沢は本来、表舞台で代表として自身や党の政策をアピールするより、裏に回って政権を支える役回りが似合う。今は野党党首だから、政府・与党を批判するコメントを出す機会は多い。しかし首相となれば、攻守入れ替わる。叩かれることを恐れるあまり、小沢が舞台裏に回ろうとする可能性は排除できない。
根強い「総理・代表分離論」
民主党内には、党代表とは別の議員を首相(総理)に就任させる「総理・代表分離論」が根強い。かつて、自民党でも総理と党総裁を別々に選ぶ分離が検討された経緯があり、民主党幹部の1人は「総・総分離を小沢は考えている」と筆者に語ったことがある。
その場合、小沢は総理には自分以外の議員を充て、自らは党代表として実権を握ろうとするはず。これなら、小沢も国会審議に縛られず、野党の攻撃をまともに受けることもない。そのうえ、党も内閣も事実上コントロールできる。
仮に「総・総分離」が実現した場合、首相候補のナンバーワンとして党内に待望論が強いのは、副代表の岡田克也だろう。実直、気まじめな政策通、悪く言えば堅物・・・。面白味を欠く点は否めないが、後輩議員や落選者の支援のため、地方行脚を重ねている。そのひた向きさに対する党内の人望は厚い。
代表代行の菅直人、幹事長の鳩山由紀夫も首相候補になるが、既に「賞味期限切れ」との声が少なくない。岡田も菅・鳩山と同じく代表経験者だが、敵が少ない。一方、菅・鳩山は長年のライバルであり、「ポスト小沢」では同志討ちになりかねない。むしろ重要閣僚に起用されて実績を上げた方が、「次」を狙える可能性も出てこよう。
ウルトラC「小沢辞任」シナリオ
もっとも、小沢にとって都合のよい「総理・代表分離論」は世間に通用するだろうか。「小沢首相」前提に民主党へ投票する有権者を裏切ることにならないか。いくら健康問題を理由に首相を固辞しても、世論の反発は小さくないだろう。
そこで考えられる「ウルトラC」が、次期衆院選で民主党が政権を奪取した後、小沢が代表を辞任するシナリオだ。
「ひょっとしたら、小沢は次期衆院選で役割を果たしたと言い放ち、辞めるかもしれない」という声は確かに党内にある。だが、まだこれは憶測にすぎない。小沢が権力を獲得しながら、代表の座を降りる事態が本当にあり得るのか。にわかには信じ難いことだ。
ただ、代表辞任後も「名を捨てて実を取る」ことが可能ならば、小沢はポストに拘泥しないはず。要は、キングメーカーとして党の実権を掌握できればよいのだ。
「まず、私自身が変わらなければならない」。民主党代表に就任した際、小沢はこう宣言したが、本当に変わったのか。「古い小沢」のままではないのか。