テレビ、ラジオ、動画配信も含めてあらゆる番組の脚本・台本を書いている放送作家が700人以上集結する日本放送作家協会がお送りするリレーエッセイ。ヒット番組を書きまくっている売れっ子作家、放送業界の歩く生き字引のような重鎮作家、今後の活躍が期待される新人作家と顔ぶれも多彩、得意ジャンルもドラマ、ドキュメンタリー、情報、バラエティ、お笑いなどなど多様性に富んで、放送媒体に留まらず、映画、演劇、小説、作詞……と活躍のフィールドも果てしなく!
それだけに、同じ職業とは思えないマネーライフも十人十色! ただ、崖っぷちから這い上がる力は、共通してタダもんじゃないぞと。この生きにくい受難の時代にひょうひょうと生き抜く放送作家たちの処世術は、きっとみなさんのお役に立つかも~!
連載第1回は『ウルトラマン』『プリキュア』などおなじみの番組でも大活躍の小林雄次さん。
お金の価値は、絶対ではない理由は……
「脚本家って儲かるんですか?」
小学生向けの脚本教室の講師を務めた際、1人の男の子が微塵のためらいもなく私に質問しました。日本ではお金のことをずけずけと聞くのは失礼だという暗黙の了解がありますが、子供は遠慮がなく、潔いなぁとむしろ感心したものです。子供の方が素直なぶん、大人よりずっとお金への執着が強いのではないでしょうか。
さて、私は今、「お金」と「子供」にまつわるアニメの脚本を書いています。NHK Eテレで放送中の『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』です。廣嶋玲子さん原作による大人気の児童書(既刊14巻)の映像化。「銭天堂」という駄菓子屋に迷い込んだ人々が、それぞれの望みにぴったりの不思議な駄菓子を勧められ、幸運を手にするのですが、説明書を読まなかったり言いつけを守らなかったりすると、不運が待ち受けているという物語です。
毎回異なるゲストが銭天堂へたどり着くオムニバスの面白さ、ユニークで魅力的な駄菓子の数々、ちょっぴり怖いオチもあれば、感動できるオチもある展開が子供から大人まで幅広い層の心を掴んでいます。
銭天堂で駄菓子を買う客の多くは子供たちです。駄菓子屋という大人には懐かしい場所が、現代の子供たちにとっては摩訶不思議な空間として描かれています。
そしてもう1つ面白いのは、「銭天堂」を営む女将・紅子さんです。見た目はお相撲さんのように大柄で、白髪だけど、お肌はすべすべで年齢不詳。「運も不運も紙一重。銭天堂、開店でござんす」と口調も独特です。その紅子さんが駄菓子の代金として要求するのは、必ず小銭1枚。
例えば、「昭和四十二年の十円玉で支払ってくださんせ」というふうに具体的に指定します。紅子さんにとって、その小銭は「お宝」であり、お客様が幸運になれば、小銭は可愛らしい「金色の招き猫」に生まれ変わり、不幸になれば「不幸虫」という気味が悪い虫に変わってしまいます。
そういえば私も子供の頃、発行年数の古いレアな小銭を見つけては大事にコレクションしていましたっけ。おそらく鑑定したところで大した値打ちがある代物ではなかったのでしょうが、あれは私にとって最高のお宝だったのです。
お金の価値は人それぞれであり、絶対ではありません。銭天堂にはそんなさりげない教訓もあります。そもそも銭天堂では、ちっぽけな駄菓子が五百円だったり、高価に見える駄菓子が一円だったりします。値段と商品の価値は、一見すると一致していません。ですが、紅子さんの目的はお金儲けではなく、「お宝」である小銭を手にすること、そして、駄菓子を手にした人間が幸運になるか不運になるか、その生き様を見届けることなので、それで構わないのです。
原稿用紙1枚分の値打ちは?
さて、ここで冒頭の「脚本家って儲かるんですか?」という質問に立ち返ります。
ズバリ、儲かるのか、儲からないのか? 「それは『運』次第でござんす」と紅子さんなら答えるでしょう。まさに「運も不運も紙一重」。いえ、冗談ではないので、もう少しお付き合いください。
何しろ、執筆した作品がヒットするか否か、どのくらいの収入につながるかは、やってみないと分からないのです。そもそも、執筆にどのくらいの時間と労力がかかるかも、作品によって全て異なります。原稿用紙1枚分の値打ちは、作品によって、時に何十倍も何百倍も差が出るのです。
「もっと楽に稼げる仕事は山ほどあるのになぁ」と思うこともありますし、苦労して書いたものがボツになって「0円」で終了することだってあります。
それでもこの仕事を続けていられるのは、お金では換算できない価値があるから。作品が子供のたちの記憶に一生残り、その人生を左右するかもしれないとしたら……その作品って、子供たちにとっても、私にとっても、最高の「お宝」だと思いませんか?
さあ、新たな「お宝」を求めて、今日も書き続けるのでござんす。
次回はたむらようこさんへ、バトンタッチ!
一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイズ」などさまざまな事業の運営を担う。