EY連載:大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流(第22回)
今回から2回にわたり、今までの記事とは少し趣を変えて「大変革時代の人事業務オペレーション」について語ってみたいと思います。ここ3~4年でRPA市場が急成長していることからもわかるように、従来はマニュアル作業で対応していた領域に対しても自動化が進み、「業務の効率化」が一段階深いレベルに移行しはじめています。定型業務のオペレーションに大半の時間を費やしていることが多い人事部にとっても、「業務の効率化」は常に喫緊の課題であるはずです。
今回のテーマ「給与計算業務」は従来からシステム化が進んでおり、既にある程度効率化されている領域です。しかし、やることが多岐にわたる中でマニュアル業務もまだまだ多く残っており、「今月も何とか乗り切った……」というオペレーションを続けている企業様も多いことかと思います。そこで今回は、現在の一般的な給与業務プロセスにおいて自動化が進んでいる部分と遅れている部分を整理し、更なる自動化(または効率化)の余地はどこまであるのかについて、最新の状況を踏まえて考察してみようと思います。
すべての企業が逃れられない業務「給与計算」
どのような規模の企業であっても、給与受給者がいる限り「給与計算業務」は存在します。業務を社外にアウトソーシングしている場合もありますが、会社に源泉徴収の義務がある以上、給与計算業務自体から逃れることはできません。
給与計算業務が基本的にはコストセンターである以上、配置する人員を極力少なくし、業務の効率化を進めていくのは当然です。しかし、ノウハウが属人化されていることも多い給与計算業務の改善が後回しになっており、業務負荷の問題を認識しながらも対応が先送りになっていたり、そもそも抜本的な改革を諦めていたりするケースも見てきました。
一方で、給与計算業務は会社の規模や業種に関わらず共通部分が多く、法律で計算式が決められている部分も多いので、歴史的にシステム化が進んでおり、非効率になっている部分をきちんとケアすれば極めて効率的に業務が可能な業務領域でもあります。そんな給与計算業務ですが、更なる自動化・効率化の可能性について、プロセスを整理しながら考察します。
給与計算のプロセスと自動化・効率化のポイント
一般的に、給与計算プロセスは以下の3つに大別できます。
(1)データ登録
扶養家族、口座、変動支給控除などの個人情報変更(申請~承認含む)、入社・退職などの発令情報登録、勤怠申請・承認~月次集計~データ取り込みなど
(2)給与計算実行
給与計算実行および計算結果の検証(給与項目ごとの妥当性チェック)
(3)給与後処理
明細書発行、振込ファイル作成、会計連携など給与計算結果確定後の後続業務
ここでは代表的な給与計算業務を整理して、各業務単位での自動化および効率化について考察します。
●自動化の進展度合い
最新の人事給与パッケージを利用している場合、各業務に対する一般的な自動化(または機能化)の進展度合いを×~〇で表現。
×:マニュアル作業が中心のプロセス
△:部分的に自動化されているプロセス
〇:自動化されているプロセス
●自動化・効率化の余地
各業務に対する現在の自動化進展度合い(=最新の人事給与パッケージをフル活用している場合)に対して、更なる自動化・効率化の余地を×~〇で表現。
×:既に自動化が進んでおり更なる効率化の余地がほとんどない
△:部分的に自動化・効率化の余地がある
〇:自動化が進んでおらず(または、完全な自動化は不可だが)大いに効率化の余地がある
まず、(1)の「データ登録」については月々で個人ごとに変動する可能性があり、人事部にとって一番負荷の高い業務と思われます。人事ポータルシステムを利用して、セルフサービスにより従業員が自らデータ更新を行うプロセスもありますが、上司による承認行為や人事によるデータの整合性やエビデンスのチェックなど、完全に従業員による登録のみで完結するわけではありません。
次に(2)の「給与計算実行」については、この部分の自動化こそが給与計算システムの大きな役割なので、基本的な支給額の計算(遡及や日割も含む)、残業計算、社会保険料、所得税などの大部分の計算は自動化されています。
一方で、給与計算結果の検証については、計算結果をExcelなどにダウンロードしてフィルタリングしたり、ツールで別途計算した結果と比較して異常値チェックをしたりするなどのマニュアル作業が介在することが多く、データ登録に次いで負荷の高い業務であることが多いです。この部分に関しては、ExcelマクロやRPAなどで結果検証ロジックを組むといった方法によってある程度の自動化は可能です。
製品によっては自動で異常値を検出してくれるものもありますが、実態としてはExcelに出力した給与結果を決められたチェック項目に従って確認する運用がまだまだ多く、自動化の余地が大きい領域ではないでしょうか。
最後に(3)の「後続処理」について。システムの各機能により一般的な要件は満たせますし、バックグランドジョブを設定するなどして、これらの処理の大部分を自動化することは従来から可能です(もちろんエラー時の対応はマニュアルとなりますが)。
このように3つのプロセスを見ていきますと「(2)給与計算」と「(3)給与後処理」は既に自動化が進んでおり(または、自動化との親和性が高く対応が容易)、結局は「(1)データ登録」が給与計算業務に残された自動化の最後の壁といえます。