経営管理(MBA)修士と、知的財産マネジメント(MIPM)修士。2つの学位を提供する社会人向け大学院・KIT虎ノ門大学院は、2004年に金沢工業大学(Kanazawa Institute of Technology)のフラッグシップ拠点として開設した。

 10〜20名の少人数授業や専任教員との超少人数ゼミを通じて、企業経営と知的財産の両面に意識の高いプロフェッショナルの養成を目指す。設置されている研究領域は【ビジネスマネジメント】【メディア&エンタテインメント】【イノベーション&知的財産】【知的財産実務】の4領域だ。

五味さんのキャリアと転換

五味 振一郎
インターネット関連企業 5G本部 Biz&Solution Planning部 サービス企画課
新卒で大手メーカーに入社して10年間、携帯電話端末の開発に携わる。39歳の時にKIT虎ノ門大学院イノベーションマネジメント研究科に入学(北谷&大橋ゼミ所属)。在学時は、国内通信事業者勤務だったが、在学中に国内IT企業に転職。2020年3月に修了してMBA取得。

 インターネット関連企業の通信事業部門に勤める五味振一郎さんは、この2020年3月にKITでMBA修士を取得した。

「KIT在学中に現在の会社に転職しました。今は、グループ内の事業アセットを次世代の通信技術と融合し活用することで、新たな価値を創造していく新規事業の企画開発を行う組織に所属しています」という五味さんのキャリアは、エンジニアとして始まる。

「大学院時代は高周波アナログ集積回路の研究をし、新卒で大手メーカーに入社して10年間、主に携帯電話の端末開発を行っていました」

「しかしスマホが主流になるにつれ、商品のコモディティ化が激しく、差別化が難しい故に、プラットフォームを握っていない端末メーカーは、誤解を恐れずに極端な表現を用いると筐体(スマホなどの外枠)を作るだけの時代になってしまった。そこでモノ作りから通信インフラ上でサービスを開発する側にキャリアを転換したいと思い、通信事業者に転職しました」

「でもやっぱりエンジニアとビジネスはものの考え方が違う。それまで技術畑が長かった私はまだビジネスの考え方が足りない、と思いました」

「年齢的にも39歳で、今後のキャリアをどう描くか、漠然とした不安を抱える時期。思考の幅を広げ、思考をより深化させたいと模索する内に、『ビジネススクールで勉強し直そう』と考えるようになりました」

KITを選んだのは

「もやもや悩んでも行動しなければ何も変わらないので、腹決めし、ビジネススクールを調べ始めました。KITの体験授業も受けました」

 五味さんが受けた体験授業は小西賢明客員教授の「ビジネス“戦略”思考」、上野善信教授の「ビジネス“オペレーションズ”思考」、北谷賢司教授の「メディア・エンタメ産業における新たなビジネスモデル創出」の3講座。

「それがどれも面白くて。中でも北谷教授の授業がきっかけで、私がこれからやりたいのはメディア&エンタテインメントだ!と思いました」

 五味さんは今まで、『半導体集積回路の研究』→『メーカーで携帯端末の商品設計・開発』→『通信事業者でサービスを開発』と、「技術のレイヤーを一段ずつ上げ、専門領域を徐々に拡大進化させる」ルートのキャリアを構築してきた。

 そんな五味さんが次に興味を持ったのは、サービス開発のルート上にある、『コンテンツプレイヤー』の業界だった。

「この分野は、知的財産や権利関係を学ぶ必要があるため知財に強いKITしかないと思った」

 KITの研究領域のひとつ【メディア&エンタテインメント(M&E)領域】では、コンテンツや著作権法など知的財産分野の学びを前提に、メディア&エンタテインメント業界の経営者・企画担当者、知的財産マネジメント人材を育成する。

「家族や会社の理解もすぐ得られて、KITへの入学を決めた。そこから2年間KITでの生活が始まりました」

入学して

「まず、入学式直後、三谷宏治教授の『戦略思考要論』にガツンと衝撃を受けました。見えている世界も、思考のレベルもまるで違うと思った」

「修了までの2年間は、脳内OSを取り替えるくらいぐらいの気持ちで勉強した」という五味さん。

「私はメディア&エンタテインメントの勉強をしたかったので、北谷賢司教授の『M&E産業要論』が入り口でした」「権利ビジネスを学ぶには知的財産について法律の観点でもしっかりと理解しなければならない。六法全書を買うところから始まって、大橋卓生教授の『M&Eコンテンツ法務特論』で権利関係の勉強をした。知財を学ぶ魅力にも取りつかれました」

スポーツ法・エンタテインメント法を専門とする法律家として活躍する大橋卓生教授

「コンテンツ業界に限らず、ビジネスをより深く理解する上で欠かせないファイナンスやM&Aなどは『企業財務特論A/B』(森谷健/髙橋晃客員教授)で勉強した。また、野副正行客員教授の『M&Eマネジメント実務演習』で業界のビジネススキームも勉強しました」

「知的財産とビジネス、ファイナンス。この3分野に、私がもともと持っていたエンジニアの専門性を合わせて、4つの柱を自分の武器として作ろうと思ったんです」

2枚の付箋

 五味さんは、在学中からずっと机に貼ってある2枚の付箋があるという。1枚目の付箋には「メディア&エンタテインメント業界で生きる4つの柱を手に入れる」と書いてある。

「チャレンジングだが、4つの柱を作れたら、将来希少な人材になれると考えた。その瞬間、書き留めた」

KITで得た学びと人脈を活かして、独自のキャリアを築いていきたいと語る五味さん

 2枚目の付箋は、2年目の元旦に修士論文を書いていたときのもの。
KITでは在学生は超少人数ゼミに所属して論文を書く。五味さんもまた、「メディア&エンタテインメント企業はどのように持続的に価値を生み出せるか」というテーマで論文を書いていた。

「5G時代の到来を踏まえ、日本のメディア&エンタテインメント企業は、コンテンツイズキングであることを忘れずに、クリエーター人材の育成や、海外展開のための権利クリアランス、そして、新技術を積極的にアダプテーションし、ノベーションを起こし続ける事で持続的に価値を創出して行けるはずである。と熟考しながら研究を進めていました」

「その時に、私にとっては『学びこそが最高のエンタテインメント』と、パッと思ったんです」

 すぐにマジックで付箋に書いて、机に貼った。

「KITに来て、知的欲求を満たすことに楽しみを覚えた。自分の中に『知らないことを知りたい』という探求心があることに気づかされた。それは大きな発見でした」

「学べば学ぶほど知識が増加し、それが脳内で有機的に結びついていく。そしてまた、新しい気づきが生まれる。思考の幅が広がって引き出しが増え、知らなかった世界がどんどん見えてくる。こんなに学ぶことが楽しいとは!と思いましたね」

今も未来も学び続ける

 修了後も学び続けているという五味さん。

「今、米中覇権戦争の影響により、世界の秩序は再構築されようとしています。このような極めて重要な国際情勢の変化点に直面している現在において、将来の潮目を読む力をつけることがビジネスにおいてはより一層重要になると考え、最近は国際政治や地政学、安全保障などの分野も勉強し始めました」

「今後はメディア&エンタテインメント業界を中心に、独自のキャリアを築いて成果を残したい。その後は自分の経験を還元していきたい」と話す。

「仕事の後にビジネススクールに行くのは楽じゃない。予復習で平日の夜も土日も休みもないし、生活は大きく変わる。でも腹決めしてしまえば、北谷教授や大橋教授をはじめとする将来のメンター、自分の見えていない世界を見ている学生仲間など、将来につながる一生の財産が得られる」

メディア&エンタテインメント科目を統括し五味さんの論文指導を担当した北谷賢司教授

「そして、KITでの学びから得られた自分の自信も財産です。KITでの学びが自分の中に蓄積としてあることで、仕事でも落ち着いて考えられるようになったと思います」

「世の中の不確実性が高くなっている今こそ、本質論を自分自身で考え抜くことが大事な時代。迷うなら、学びの世界へと一歩踏み出してみたらいいと思います」

<取材後記>

 五味さんは、今までの『技術を用いた有形のモノづくり→無形のコト/サービスづくり』のキャリアをさらに世界へ広げ、「今までの学びとキャリアを全て包含するような新しい課題設定をしていきたい」という。

「今までの学びとキャリアは全て繋がっているし、まだ繋がっていない領域は自分で勉強して繋げる」という力強い言葉に、キャリアを連結するのも「知というエンタテインメント」だと気づく。

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