金融庁の遠藤俊英長官が退任し、新長官に前金融国際審議官の氷見野良三氏が決定した。国際部門からは初の長官になり、遠藤氏やその前任で「最恐の長官」と畏怖された森信親氏に比べて「学者肌で、温厚な人柄」(金融庁幹部)と評されている。

 が、新長官は銀行業界からあまり知られていない“別の顔”を持っているのだ。

東西の古典や美術にも精通する博識ぶり

 富山県富山市出身の氷見野氏は、東京大学法学部卒業後の1983年に財務省(旧大蔵省)に入省。同期には財務省事務次官に昇格したばかりの太田充氏や、国税庁長官を退任した星野次彦氏など錚々たる面々がいる。

 氷見野氏は高校時代の全国模試で常に三本の指に入っていたため、東大入学後に「お前が富山の氷見野か」と、同級生から声を掛けられほどの有名人だった。

 また、東大時代も英才ぶりをいかんなく発揮して、指導教官から「助手として大学に残って論文を書かないか」と、研究者への道に誘われていたという。

 指導教官の期待に後ろ髪を引かれつつも官僚の道を選んだ氷見野氏は、入省から4年後に米ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得している。

 帰国してからは、財務省時代、さらに金融庁へ“転身”して以降も銀行業の国際ルールであるBIS(国際決済銀行)規制を定めるバーゼル銀行監督委員会の業務に携わっていた。2003年には日本人初の同委員会の事務局長に就任したため、霞が関では“財務省随一の国際派官僚”と目されている。ちなみに、語学力は外務官僚も舌を巻くほどだという。

 氷見野氏の才能は、語学だけに止まらない。公務の傍ら執筆活動にも力を入れ、これまで世に出た著書は3冊。本業に関係する『検証 BIS規制と日本』(金融財政事情研究会)のほか、思想書の『易経入門―孔子がギリシャ神話を読んだら』(文春新書)や評伝『マイヨール』(グラフ社)といった、氷見野氏の教養を裏打ちするような著書もある。