脳波センシング市場を視野に
ベンチャー企業への出資も

 NB開発本部では、新規事業開拓に当たって、大きく4つのマーケットを想定してきた。「次世代自動車」「環境エネルギー」「情報通信」、そして「ライフサイエンス」がそれだ。自動車部品という得意分野を持つNOKが、こうした「畑違い」の分野に挑戦する理由について宮嶋氏はこう語る。

「高齢化 医療費増大を背景に、治療から予防へと世の中がシフトしていく中、かねてから将来の成長領域の一つとしてヘルスケアには注目していました。そこへ斬り込んでいくための商品は何か、と模索する中でたどり着いたのが『生体信号ゴム電極』というものでした」

 これは導電性のゴム素材を用いた電極で、人体に流れる微小な電流を捉えることができるものだ。人体に負担のないソフトな素材で、心電計や筋電計などへの利用が想定され、例えばどこの家庭にもある体温計のように、気軽に自分の健康状態が分かる製品に組み込まれることをイメージしているという。言うまでもなく、同社がオイルシールやOリングで培ってきた高分子ゴム技術がなくては成立しない。

 ただ、コア技術活用を念頭に置きながら、自前主義を意識しすぎないようにしたい、との思いも強い。NB開発本部では、かねてから外部の企業や研究機関との協業を積極的に進めてきた。

 自前主義は独自の強みの最大化である一方、こだわりすぎると激しい環境変化に取り残されかねない。NOKは外部との多様な協力関係を保つ一方で、新事業の方向性を常に複数模索する道を選んだ。それほどに激しい事業環境変化に対する危機感は強い。

 NOKがパーツを提供する「マイクロ流体デバイス」にもそれは見て取れる。これは、透明なシリコーンゴムの内部にごく微細な液体の流路を設け、その中を流れるさまざまな液体に化学反応を起こさせるなど、多様な活用法が期待できる「手のひらサイズの化学実験室」のような装置だ。

「例えば検査用に採取した血液などを流すと、がん細胞やある血球だけを分離、一粒子ずつ捕捉し、分析することができます。これらは東京大学や茨城大学との共同研究から生まれたもので、これまでの顧客対応としての製品開発とは一線を画すものです。

 当社ではこれまでなかったアカデミックな研究との共創から得た成果を社会実装につなげていく取り組みと言えます」と、宮嶋氏は意義を語る。

マイクロ流体デバイス

 冒頭で触れた生体のセンシング技術に関しても、その成果の一つと捉えることができる。NOKのグループ会社である日本メクトロンは、「ストレッチャブルFPC」を開発、この製品は脳波測定、ニューロマーケティングを展開するベンチャー企業PGV社の製品、人の額に貼り付けて脳波測定できるデバイス「パッチ式脳波センサー」に採用されている。NOKからPGV社に追加出資も行い、開発を後押しする。