第4次安倍再改造内閣が発足し、会見に出席した小泉進次郎環境相(2019年9月11日、写真:ロイター/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 福島第一原発に貯水されている100万トン以上の「処理水」のゆくえが、改めて話題になっている。原田義昭前環境相が「薄めて海に流すしかない」と発言したあと、小泉進次郎環境相がそれを否定し、福島県漁連に陳謝して話が混乱している。

 韓国政府もそんな日本の弱点を見透かして、IAEA(国際原子力機関)で「福島の処理水は世界全体の海洋環境に影響する」と主張している。日本政府はそれに「受け入れられない」と反論しているが、どう処理するかは答えられない。これまで安倍政権は、この問題を先送りしてきたからだ。

1000基のタンクの中の57ccのトリチウム

 福島第一原発に行って見るとわかるが、そこで毎日5000人の作業員が防護服を着て行っている作業は、敷地の中の水を汲み上げて、約1000基のタンクに貯めることだ。その水のほとんどは、単なる雨水と地下水である。

「これはそんなに危険な水なんですか?」と東電の幹部に聞くと、「飲んでも大丈夫です」という。私が「環境基準以下に薄めて流してはいけないんですか?」と聞くと、彼は「私たちには決められません」と答えた。

 普通は原発から出る水は、強い放射性物質を除去した残りは薄めて流す。福島第一でも、事故まではそうしていた。ところが2011年の事故で原子炉の炉心が溶融し、それを冷却した水に大量の放射性物質が混入した。

 これを除去するために、国の予算で多核種除去設備(ALPS)という最新鋭の設備を導入し、62種類の放射性物質を除去したが、トリチウム(三重水素)だけはALPSでは除去できないので、処理水の中に残っている。

 トリチウムは自然界にもある水素の放射性同位体で、酸素と結合して水に混じっている。化学的には水素と同じなので、原理的に分離できない。ごく微量のベータ線を出すが、水中を0.006mmしか伝わらないので人体にほとんど影響はない。

 トリチウムの含まれる水の量は福島第一原発全体で57ccと見積もられているが、これが100万トンの水の中に混じっている。最初は東電も国も「トリチウム以外を除去すれば何とかなるだろう」ぐらいに考えていたのだろうが、 問題は予想外に難航した。