中国がどうやら対艦弾道ミサイル「東風21D」の実戦配備を開始したようだ。人民日報系の「環球時報」がこれを伝えた。

 「東風21D」は、いわゆる「空母キラー」として米軍が注視してきた中国の最新兵器だ。これによって中国の「接近阻止(Anti-Access)」戦略が本格的に動き始めたことを意味する。

 だが、米国も手をこまぬいているわけではない。ステルス型の無人偵察・爆撃機「X-47B」の試験飛行を成功させ、これを空母に配備して対抗手段とする構図が現れた。いよいよ米中軍拡競争が始まった。

台湾海峡有事の際に米海軍を寄せ付けないのが配備の狙い

 「東風21D」は射程距離が約2000キロメートルあり、中国本土の沿岸部から西太平洋に向けて発射した場合、グアム島付近まで届く。

 この海域は中国海軍戦略における絶対的制海権確保を目指す「第1列島線」(日本、南西諸島、台湾、フィリピンを結ぶライン)と、太平洋に向けて影響力の拡大を目指す「第2列島線」(伊豆諸島、小笠原諸島、硫黄島、グアム島、サイパン島、パプアニューギニアを結ぶライン)の間に位置する。

左の赤いラインが第1列島線、右のラインが第2列島線(ウィキペディアより)

 第2列島線上のグアム島と第1列島線上の東京、台北を直線で結んだ海域を、それぞれの頭文字をとって「TGTトライアングル」と呼び、日米の防衛協力の重点地域と見なされている。

 それは、この海域に日本、韓国のシーレーンが通っているからであり、この海域の安全が確保できなければ大変な事態になるからだ。「東風21D」は、この海域に新たな脅威をもたらすことになる。

 中国の「東風21D」の配備の狙いは、明らかに台湾海峡有事の際、米海軍の介入を阻止することにある。

 だとすれば、中台関係が平穏であれば、米軍は「東風21D」の存在をさほど気にしなくてもいいはずだ。台湾で馬英九政権が成立して以降、中台の緊張緩和が進展している現状では、台湾海峡有事の可能性は低下する一方である。その意味で言えば、米軍が「東風21D」の出現にことさら神経を使う必要はないようにも見える。