安倍首相は10月15日の臨時閣議で、来年(2019年)10月に予定されている消費税率の10%への引き上げを予定通り実行すると表明した。増税の最大の目的は「全世代型社会保障」の財源確保だという。これまでマクロ政策偏重だった安倍政権が、3期目に入ってようやく長期的な財政や社会保障の問題に手をつけたのは一歩前進だが、これは政治的には困難だ。
わざわざ「全世代型」と命名したのは、現在の社会保障が「老人型」だと認めたからだろうが、格差が拡大しているのは若者と老人だけではない。「痛税感」の大きい消費税の増税を延期して取りやすい社会保険料を上げたため、日本の社会保障は大きく歪んでしまったのだ。
厚労省の無視する世代間格差
厚生労働省は、今の年金制度が老人優遇だとは認めていない。すべての人が支払った社会保険料より多くの給付を受ける「100年安心」だというのが、その公式見解である。これは数字のトリックで、社会保障の税負担を含めると将来世代は大幅に損し、現在の60歳以上とゼロ歳児では生涯所得で1億円近い差が出る、というのが経済学の世代会計の計算だ。
厚労省もその計算は認めるが、世代間格差は問題ではないという。その公式見解をマンガにした「いっしょに検証!公的年金」というウェブサイトでは、将来世代の年金給付水準が下がるのは「親の世代が日本を発展させ、親を扶養して子供を育ててきたので当然だ」と反論している。子の世代は親の世代から遺産を相続し、社会資本を受け継ぐので、世代全体としては豊かになるというのが厚労省の年金マンガの論理である。
確かに日本の家計金融資産は約1800兆円で、政府債務約1100兆円を引いても700兆円の資産超過になる。将来世代のストックは今より豊かになるので、人口減少で成長が減速しても日本人が絶対的に貧しくなることは考えられない。
しかし遺産を相続できる人とできない人の格差や、社会保険料を負担する世代と年金を支給される世代の格差は拡大する。保有資産が最大なのも所得格差が最大なのも60歳以上の高齢者だから、老人型社会保障は富の逆分配をもたらすのだ。世代間格差は富の水準ではなく、こうした分配の不公平の問題である。