それに対してサムスン電子は、赤・緑・青を横に並べて層を形成する「3色蒸着方式」を採用している。真空装置の中で材料を加熱蒸発させて、精密な小さな穴の開けたマスクを通して、3色を横に並べて形成するというやり方だ。ここで使う精密なマスクの製作、正確に横に並べるためにマスクを精密に位置合わせするのが非常に難しいのだ。

 サムスン電子は、小型のスマートフォン用で成功し、世界のスマホ用有機ELをほぼ独占している。この方式を大型にも拡大しようとしたのだが、位置合わせが至難の業となる大型では生産歩留まりを上げられず、有機ELテレビの生産を中止せざるを得なかった。このことが、前述のサムスン電子副社長のコメントの背景にあったのだ。

 もう1つの生産方式は、赤・緑・青を、インクジェットプリンターの様に、印刷で塗分ける「3色印刷方式」だ。この方式は真空状態を作る必要もなく、工程が簡単なので、有機EL生産の最終ゴールになりえる。

 ただし、インクを生産する際の不純物の除去が難しく、輝度と寿命に課題がある。また微細に塗分ける技術の難度が高い。

 日本の「JOLED」(ジェイオーレッド)は、この方式を追求している。JOLEDは、ジャパンディスプレイ、ソニー、パナソニックの有機EL事業を統合して設立された「日の丸有機EL企業」だ。

LGが号砲を鳴らした「有機EL元年」

 2017年は「有機EL元年」だった。その号砲を鳴らしたのはLGだった。

 CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)は、毎年1月初旬にラスベガスで開催される世界最大のエレクトロニクス展示会だが、昨年(2017年)1月、筆者は有機ELの調査のため参加した。

 CES2017で最も存在感を示していたのは、やはりLGだった。

 LGは、有機ELテレビをドーム状に展示していた(トップ画面の写真)。有機ELパネルは曲げることができるのでドームにすることができる。そこに映し出された惑星が落ちてくる映像は迫力があった。全天の星が流れる映像では、床が反対方向に動いていると感じるくらいのリアリティである。