エジプトで30年近く続いたムバラク政権が崩壊して5年の歳月が過ぎた。
2010年末、チュニジアで細々と日々の糧を得ていた若者が警官から受けた理不尽な扱いに抗議し焼身自殺したことに端を発し、中東に民主化運動の嵐が吹き荒れた「アラブの春」。
2011年1月13日、ベン・アリー大統領は国外へ逃亡、4半世紀近い長期政権が思いのほかあっさり崩壊すると、飛び火したエジプトでも、2月13日、ムバラク政権が倒れた。
8月には、欧米の軍事介入もあり、40年以上に渡り実権を握り続けてきたカダフィ大佐までも失脚、北アフリカ3国から独裁者が消えた。
変化の波は、サハラ砂漠を越え、非アラブ世界、マリ共和国にも及んだ。しかし、それは、民主化の波ではなかった。
武装組織の非道と人間味
カダフィ政権崩壊後、国家として体をなさなくなったリビアから流出した武器とともにやってきた武装組織に、2012年、世界遺産都市トンブクトゥなどが占拠されたのである。
昨年末劇場公開となった『禁じられた歌声』(2014)は、かつて金や塩、奴隷など、キャラバン交易で栄えた「黄金の都」トンブクトゥを舞台に、イスラム過激派が支配し、音楽やスポーツまでも禁じられ、日常生活から自由が失われていく様を映し出す。
同時に、武装組織の側の人間的な部分も描き出し、人間というものの矛盾が示される。フランスの映画賞セザール賞で7部門を制したこの作品、モーリタニアに生まれ、マリで育ち、ソ連に学び、フランスで活動してきた、多様な文化に触れてきたアブデラマン・シサコ監督ならではの視点が新鮮である。
そして、2002年初め、日本で公開された『カンダハール』(2001)を思い起こさせる。イランの人気監督モフセン・マフマルバフが描くタリバン政権下のアフガニスタンの描写に、9・11同時多発テロが起きても、イスラム世界について極めて知識が乏しい日本で、多くの人が衝撃を受けたのである。
2005年、検閲の圧力に抗議、イランを離れ、以後、ロンドンやパリを拠点に活動しているマフマルバフは、昨年12月公開となったその最新作『独裁者と小さな孫』(2014)では、独裁者の側を描いている。