中国では9月22日、三大節句の1つである「中秋節」を迎える。日本では中秋の名月を見ながら月見団子を食べる習慣があるが、中国では「月餅」を食べる。月餅とはその名前の通り、満月の形をしていて、一家団欒を意味する縁起物である。

 中国人が昔から中秋節に満月を見ながら語り継ぐのは「嫦娥奔月」という神話物語である。嫦娥奔月とは「嫦娥、月に奔(はし)る」の意味だ。

 嫦娥(じょうが)という仙女が不老不死の霊薬(または天上界へ行ける霊薬)を飲み、夫と別れて1人月へ昇って月宮(広寒宮)で寂しく暮らすことになったという中秋節の故事である。この物語から、中国人の月に対する憧れとロマンが感じられる。

4個入りで数十万円もする月餅の贈答セット

 中秋節になぜ月餅を食べるのだろうか。古い文献によると、元々月餅は先祖供養のお供えだったと言われる。丸い形の月餅は先祖とその子孫が年に1度団欒することを意味する。

 近代になってから、月餅は一年中食べられる食品に変わり、どちらかと言えば、日本のおやつのようなイメージの茶菓子になっている。

 ただし、お世話になった友人などへの手頃な贈り物であることには変わりがない。また、子供たちが親の家に集まる時、月餅を手みやげに持参することも少なくない。

 日本では、お世話になった人にお中元を贈る習慣があるが、中国では、中秋節に友人などに月餅を贈るのが一般的である。

 近年、経済発展に伴って、業者は贈り物する時に見栄を張る中国人の心情を利用して、競って豪華な月餅を発売するようになった。味そのものも進化しているが、月餅を入れる箱や包装が行き過ぎるほど豪華になっているのだ。

 中には、月餅の4個入りセットが日本円で数十万円もする「天価月餅」も現れている。こうなるともはや食べ物ではなく、ステータスシンボルである。

月餅の中からプリペイドカード、車のカギ・・・

 実は、中秋節は政府の腐敗幹部が収賄するチャンスでもある。社会主義市場経済になってから、腐敗幹部と業者が贈収賄するツールとして月餅が使われているのだ。

 共産党は、幹部の腐敗について目をつぶる政党ではない。とりわけ贈収賄を目的とする現金の授受については厳しく目を光らせ、数十万元(数百万円)の贈収賄をした当事者を死刑、または無期懲役に処することができるようになっている。実際に、毎年4000人に上る幹部が贈収賄などの罪に問われ、死刑や懲役20年以上の刑に処せられている。

 それでも幹部の腐敗は後を絶たない。

 贈収賄の手口もだんだんと巧妙になっている。現金を授受するとバレやすいため、「物」で贈賄する傾向が強まっているのだ。

 今年の2月の春節(旧正月)では、蘇州のあるデパートで1個8888元(約11万円)のリンゴが2個発売され、いずれも売れた。新聞報道によると、ある業者が入院中の共産党幹部を見舞いに行く時の贈り物として買ったと言われている

 同様に、月餅も腐敗幹部を「買収」する絶好のツールになっている。見た目は月餅だから、特定の業者からもらってもそれほど問題ない。しかし、その中身には細工がしてある。