我が国は昭和51(1976)年に実質的に全面的な武器輸出禁止政策を採用して以来、米国との間における限定された武器および武器技術の輸出を除き、武器輸出を実施してこなかった。
それが平成26(2014)年4月1日の政府による「防衛装備移転三原則」の策定により、新たに定めた3つの原則を満たせば、どの国へも武器を輸出することが可能となった。これによって世界における我が国の地位にふさわしい国際社会に対する貢献ができる体制が整えられるとともに、高度な技術や広範な市場へのアクセスが可能となった。
しかしながら、政策変更後まだ日が浅いとはいえ、現状ではこの政策変更が生かされるような成果がいまだ表れてきていない。
これは、約40年間にわたる実質的な武器輸出の空白期間を経て再開される武器輸出に直面して、武器輸出を実施するための体制がいまだ十分に整えられていないということが主たる要因であろう。
そのほかに、国民の間に「武器輸出イコール死の商人」というイメージ並びに「武器輸出をしないことは平和国家の証し」という極めてナイーブなイメージが浸透していることが、その根底にあるからだと思われる。
“死の商人”とは、金儲けだけが目的で互いに敵対する双方に武器を売る商人に対する蔑称である。
今日、国際社会は、武器輸出がもたらす弊害を排除あるいは局限し、武器輸出による平和の実現あるいは平和への貢献という正の部分を拡大させるため英知を働かせて様々な仕組みや制度を確立しており、先進国をはじめとして多くの国がこの仕組みや制度に加入している。
従って、“武器輸出は悪”であり、“武器輸出イコール死の商人”というイメージでとらえることははなはだしい間違いである。
“武器輸出をしないことは平和国家の証し”は正しいか?
人類の歴史は戦争の歴史であり、人類にとって武力(軍事力、国境警備隊、沿岸警備隊、警察など)なき平和の達成は理想でしかない。武力が抑止力として働き平和が保たれ、秩序が維持される。
平和とは戦争や紛争のない状態のことであり、国家間あるいは集団と国家間あるいは集団間どうしの軍事力の均衡によって戦争や紛争が抑止され、その結果として平和がもたらされるのが国際社会の現状である。