「今の上海はめちゃくちゃ、用がなければなるべく帰りたくない」
こう嘆くのは東京に駐在する中国人男性W氏だ。帰れば必ずトラブルに巻き込まれるのだという。
トラブルの多発地帯と言えばタクシーの車内。上海では今、W氏のみならず「できるだけ乗りたくない」とタクシーを避ける市民が増えている。上海万博以前はタクシー運転手は明るく、サービスもよかった。しかし最近はぶっきらぼうな運転手ばかりで、マナーも悪化。うっかりしているとわざと遠回りされるので気が気ではない。重たいトランクの上げ下ろしに手を貸してくれる運転手も少なくなった。
上海でタクシー運転手は2000年代初頭まではちょっとした花形職業だった。しかし今では「安くこき使われる仕事」の代名詞となった。いまや上海戸籍をもつ運転手は少ない。多くは、非上海戸籍の江蘇省や安徽省などの出身者である。
「タクシーの座席には条例の指定で白いカバーが掛けられていたものだが、すっかり見なくなった。車内はお世辞にもきれいとは言えない」(同)
Wさんは先日、上海で運転手の態度に腹を立てて口論になった。タクシーの日常業務を管理監督する「上海市城市交通運輸管理処」にすぐにクレームの電話を入れた。だが、誰も電話に出なかったという。
上海市では「上海市出租汽車管理条例」(出租汽車=タクシー)という条例のもあとに、タクシーの運営管理、サービスの維持が求められているが、サービスのレベルは年々悪化する一方だ。Wさんは「行政は何をしているのか」と憤懣やるかたない様子だ。
“おいしい”出張に行けなくなった
浙江省で地方公務員を務めるNさんは、数年前まで会議を名目に頻繁に上海に出張していた。「出張し放題」は地方公務員の特権だった。上海などの大都市を訪れることは一種の慰安旅行のようなものになっていた。
ところが、習近平体制が発足すると、出張が「テレビ会議」に変えられた。Nさんはこう語る。「出張に行くことはすっかりなくなった。出張の際は必ず訪問先へおみやげを持参していたものだが、それすらも買うことがなくなった」