12月30日、モルドバ船籍のボロ貨物船「ブルースカイM」号のSOSを受けたとき、ちょうどイタリアの沿岸警備隊は大わらわだった。28日にアドリア海で火災を起こしたフェリー「ノーマン・アトランティック」号の乗客の救助が、荒海の中で40時間にもわたって続けられていたのだ。
シリア難民を満載して地中海を暴走した貨物船
しかし、ブルースカイM号の方も、放っては置けなかった。最初の情報では、その貨物船には1000人近くの難民が乗っているばかりか、船の舵は自動操縦モードに設定され、船員なしで、アドリア海をイタリア東海岸の岸壁に向かって突き進んでいるということだった。船を止めなくては岩礁に激突する。
沿岸警備隊は慌てて駆けつけたものの、時化ていたため、救助は困難を極めた。ブルースカイM号に船を寄せることができず、ヘリコプターで空から6人の隊員を甲板に下ろした。
そして船のエンジンを停止し、固定されていた舵を解除し、航路を変更し、ようやくエンジンを再スタートすることができたときには、すでに岩礁まで8キロという地点だったというから、まさに危機一髪であった。31日の朝3時半に、ブルースカイM号は、無事にガリポリ港に入港した。
後の調べによると、乗っていた人の数は768人で、ほとんどがシリアからの難民だった。彼らは密航業者に1人当たり4500から6000ユーロ(約63万~84万円)ものお金を払って、シリア国境からほど近いトルコの港で老朽貨物船に乗り込んだ。雇われ船長はやはりシリア人で、1万5000ドル(約177万円)の報酬と、家族を乗船させるという条件で操縦を引き受けた。
最終的に、船長も家族とともに難民としてイタリアに逃れるつもりだったらしく、密航業者との打ち合わせ通り、沖合で船の操縦を放棄し、自動操縦をセットして難民の中に紛れ込んだ。その瞬間から全員が、荒海を勝手に突き進む船と運命を共にすることになったのだった。
実は、その前日の午後、不安を覚えた難民の1人がギリシャ警察にSOSを送り、船が重武装した人間に操縦されていると報告したという。それが本当なら、最初は、密航あっせん業者の一味が同乗していたのだ。
港湾警察の発表では、通報を受けた後、ヘリコプター1台と巡視船2隻、フリゲート艦1隻を派遣し、コルフ島沖でブルースカイMを点検したが、何も異常はなかったので、航行を継続させたとのこと。しかも、公海に出るまで、フリゲート艦で護送までしたという。
ただ、難民が無事救助されたあと、船長がつかまり、事情聴取をしたところ、話はだいぶ違ってきた。