ただジョンウン氏は1983年生まれ(84年説もある)で、不安定な国家を統率していく上では若く、経験も乏しい。北朝鮮が2009年11月に実施したデノミネーション(通貨呼称単位の変更)などは、「当初は、ジョンウン氏の実績づくりに役立てる狙いがあった」との情報もあるが、このデノミを含め最近の政策はことごとく失敗しており、後継者を「神格化」する材料にはなっていない。
ジョンウン氏を称える歌とされる「パルコルム(歩み)」を朝鮮中央テレビで放映するなど宣伝活動は続いており、住民の間にも、じわじわと後継者の名前は浸透しつつあるようだ。しかし、突然公表すれば軍や党の指導層、苦しい生活を強いられている住民からの反発を招く可能性もあり、たとえ党幹部に選出しても、対外公表は控えるとの見方もある。
金総書記自身、父の金日成主席からの権力承継は平坦な道のりではなかった。そもそも社会主義体制において「世襲」によって後継者を決めるのは異例なことであり、カリスマ性が強く国父と讃えられた金日成主席からの権力移譲は相当な重荷だったはずだ。
総書記は軍実力者らからの支持を巧みに得るなどして、異母弟らとの権力闘争を勝ち抜き、後継者の立場を手に入れたとされる。
張成沢氏夫婦が後ろ盾に
ジョンウン氏は故高英姫(コ・ヨンヒ)氏と総書記の間に生まれ、長男・正男(ジョンナム)氏、次男・正哲(ジョンチョル)氏という2人の兄を差し置いて、後継者になると言われている。
ただ最近、韓国紙が正男氏の語った話として伝えたところによれば、ジョンウン氏は実は現在の総書記夫人である金玉(キム・オク)氏の息子という情報もあるという。事実であれば、三男が突然後継者に浮上した背景に現夫人の強い影響力があったのかもしれない。
性格は父親に似ていると言われるが、果たして総書記が権力闘争で見せた狡猾さを持ち合わせているのかは不透明だ。このため総書記の妹、金慶喜(キム・ギョンヒ)氏やその夫・張成沢氏がジョンウン氏の「後ろ盾」として面倒を見ることになりそうだ。
金正日総書記の義弟の張成沢氏は、2010年6月の最高人民会議で国防委員会の副委員長に昇格した(写真は09年の最高人民会議の様子)〔AFPBB News〕
張氏は6月の最高人民会議(国会に相当)で国防委員会の副委員長に昇格しており、これも後継体制の準備に向けた作業の一環とみられる。
最高軍事指導機関である国防委員会は委員長を金総書記が務め、第1副委員長は軍の古参で実力者の趙明禄(チョ・ミョンロク)氏。ただ趙氏や張氏以外の副委員長は高齢で、60代半ばの張氏は飛び抜けて若い。金総書記は張氏に軍幹部をまかせることで、張氏の軍における基盤確立を狙ったとみられる。

