利益を上げ続ける企業には必ず理由がある。いくつもの成功事例と失敗事例を見てきた、ワクコンサルティングの松井拓己氏に、利益を上げている企業の共通点について聞いてみた。
 

ワクコンサルティング株式会社 
取締役副社長執行役員 
ディレクターコンサルタント 松井拓己氏

サービスサイエンスチームリーダー。
名古屋工業大学産業戦略工学専攻修了後、ブリヂストンで商品企画開発に従事。事業開発プロジェクトのプロジェクトリーダーとしても新規事業戦略立案に貢献。
その後、150名のベテランコンサルタントが集うワクコンサルティングに参画し、副社長として主にコンサルティング事業のサービスマネジメントに従事している。サービスサイエンスに基づいたサービス改革や 営業改革、顧客満足向上支援を専門とし、サービスサイエンス研修や講演も行っている。

 

利益を上げている企業とそうではない企業の違いは、
どこにあるのでしょうか?

 利益を上げている企業は、いわば「元気のいい」企業です。それは、お客様中心でビジネスをドライブしていて、お客様から喜んでいただける企業です。しかし、現実には経営のトップが「お客様中心」というビジョンを掲げていても、現場では絵に書いた餅になっている例がほとんどです。

 私の専門であるサービスサイエンスでは、顧客満足度(CS)を次のように定義しています。サービスを受ける前の事前期待を、サービスを受けた後の実績評価が上回れば、顧客満足が得られる。つまり、顧客満足を高めるためには、お客様がサービスを受けた後の実績を評価するだけではダメで、サービスを受ける前の「事前期待」を掴まなければ、真の満足度は高められないのです。
 

図1:お客様満足の定義

 

 本気になってお客様に喜んでいただこうとしている企業では、この事前期待を掴むことと、実績評価を高めるためのサービス品質向上の、両方の努力を日々実践しているのです。とはいえ、その努力の内容は様々です。その中でもうまく成果を出している企業は、失点をしないための努力だけでなく、得点を増やすための努力に積極的に取り組んでいます。

 ついつい、失点をしないための努力に注力しがちですが、お客様は「失点をしない」だけでは、高く評価してくれませんし、他社との差もつきません。

 一方で現場の本音は、現状の業務だけで忙しいのに、追加で何か得点を増やす努力をしろと言われても、無理難題を押し付けられているようにしか思えないのです。この状況をいかに打開できるかが大きなカギになると思います。

得点を増やすための努力をするのは、簡単なようで現実には難しいと思います。うまくいっている企業はどのあたりに違いがあるのでしょうか?

 ひとつには、社員のモチベーションを高く保てているかどうかが重要です。業務の内容を分析してみると、お客様や会社から評価される業務と、そうでない業務があります。社員のモチベーションは、この評価される業務にどれくらい注力できているかに大きく左右されると思います。

 営業の仕事を例にとると、提案活動や既存顧客へのフォローだけではなく、社内報告書の作成や契約書などの管理に、顧客への納品など、実に様々な業務を1人で行っているのではないでしょうか。このような企業で、営業がどの業務にどれくらいの時間を割いているか、ワークサンプリングをしてみると、多くの企業で、経営が期待する本来の営業活動の業務に割いている時間は、全体の10%にも満たないということが分かります。これは、企業の規模にかかわらず共通する課題です。つまり、経営が営業に期待している「評価される業務」にほとんど時間が使われていないのです。