中国にとっては、まさに多事の秋である。
かつて最高実力者である鄧小平はイギリスのサッチャー首相(当時)と、返還後の香港では中国(大陸)と異なる資本主義の存続を保障する、いわゆる「一国二制度」を約束した。それでも多くの香港市民は、返還後の香港が中国の統治下に入ることを恐れ、返還の前に相次いでイギリス、カナダ、オーストラリアなどへ移住した。こうした移民ブームの背景に、北京政府に対する香港市民の不信があったことは明らかである。
その後、中国経済の高度成長は香港経済にも多大な恩恵をもたらした。特に中国政府は香港の人心を掌握するために、大陸住民による香港での投資を許可し、「自由行」(香港への個人旅行の自由化)を認めるなど様々な政策を打ち出した。
香港と大陸の政治的な一国二制度は続いているが、経済は一体化が着実に進んだ。大陸の不動産バブルは香港の不動産市場にも波及した。今や香港は坪当たりの単価が世界で最も高くなっている。
ただし、香港経済の過熱は、投資家にとってはグッドニュースかもしれないが、香港の一般市民にとって必ずしも朗報とはならない。不動産価格の上昇はマンションとアパートの賃料に波及し、低所得層には大きな負担になっている。香港と大陸経済の一体化を熱烈に歓迎する投資家と事業者がいる一方、一般の香港市民の間では不満が募っている。
問われる一国二制度の真価
鄧小平がサッチャー元首相に約束した一国二制度は、そもそも一体どのようなものだったのか。