「南の島」出身のアーティストのライブ会場は、いつも同窓会のような雰囲気に包まれる。奄美諸島南端の与論島のグループ「かりゆしバンド」も例外ではない。

 「やあ、久しぶりだね」

 「今日は○○は来ないの」

 先月28日に横浜・関内の老舗ライブハウス、横浜B.B.streetで開かれた「かりゆしバンド」の一夜限りの歌と演奏に詰めかけた人たちの間には、旧交を温めながら楽しげに開演を待つ笑顔があちこちで見られた。

田畑哲彦(右)と牧美也子(左)=B.B.streetで

 この“同窓会”で懐かしさに浸るのは島の人だけではない。一度観光などで与論島を訪れ、それがきっかけで「かりゆしバンド」の演奏に触れて、彼らのファンになった人たちもまた、旅のいい思い出を抱えてかりゆしバンドのライブときいて駆けつけた。

 ある夫婦連れの初老の男性は「旅行で島に行ったのがきっかけで聴くようになったんですが、とくに『たましいの島』っていうのが好きで・・・、今日はやってくれるかな」と、期待していた。

 また、年配の女性二人は、「今度、旅行で与論に行くので聴いておきたいとおもいました」という。

 「かりゆし」とは沖縄の言葉で「めでたい」あるいは「縁起がいい」という意味。バンドのリーダー、田畑哲彦は島の小さな繁華街である与論銀座通りで長年民謡酒場「かりゆし」を運営してきた。島の焼酎や食べ物を出しながら、自らステージに立ってほぼ毎夜ライブを開いてきた。

 三線(三味線)を手に、田畑は伝統的な島唄や沖縄の歌、そしてオリジナルソングを、太鼓、ドラム、ベース、キーボードをつかったポップなサウンドに仕立てながら、女性ボーカルの牧美也子とともにうたってきた。

ファンが全国に散らばり、ライブを助ける

島の音楽と将来について語る田畑

 あらかじめ「かりゆしバンド」を知る人も、たまたま現地を訪れた人も旅情溢れる島で彼らの島唄に触れてファンになる。この人たちが日本各地のそれぞれ地元にもどってから、全国各地にライブツアーに出かけたかりゆしバンドのステージに訪れるというサイクルがある。

 それだけでなく、ファンがみずからコーディネート役を買って出て彼らを招待してライブを実現させることもある。

 今回のツアーでは横浜でのライブのあと南相馬市(福島)、弘前市(青森)、胎内市(新潟)とまわり、最後は6月7日に東京・練馬区の練馬区民・産業プラザで開かれた「与論島ファン感謝祭」のイベントに、川畑アキラ、寿里ら同郷のアーティストとともに出演した。このうち、胎内市でのライブはファンがアレンジしてくれたものだ。